時儀じぎ)” の例文
そう云う言葉さえ聞き取りにくい田舎なまりで、こちらが物を尋ねてもはかばかしい答えもせずに、ただ律義りちぎらしく時儀じぎをして見せる。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それがすむと、先生たちが出口に立って紙に包んだ菓子を生徒に一人一人わけてやる。生徒はにこにこして、お時儀じぎをしてそれを受け取った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
父は火鉢へ手をやつたなり、何も云はずに時儀じぎをしました。丁度この時でございます。わたしは母の云ひつけ通り、お茶のお給仕に参りました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
時儀じぎも御挨拶も既に通り越しているんだからの、御遠慮を申さないで、早く寝かして戴くと可い、寒いと悪かろう。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おあつうござんすねどうも」おつぎはたすきをとつて時儀じぎべながらおつたへちやすゝめた。三にんしばら沈默ちんもくしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
会う時にお時儀じぎをするとか手を握るとか云う型がなければ、社交は成立しない事さえある。
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お嬢さんも確かにその瞬間、保吉の顔を見たらしかった。と同時に保吉は思わずお嬢さんへお時儀じぎをしてしまった。
お時儀 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そいで私思わずお時儀じぎしてしまいましたら、直ぐつかつかと寄って来られて、「わたし、あんたにこないだから大変失礼してました。どうぞ悪うに思わんといて頂戴ちょうだい
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「はい」と一どう時儀じぎをした。各自かくじぜんすみへ一つづゝわたされた茶呑茶碗ちやのみぢやわんさけがれようとしたとき
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
漱石そうせきが一高の英語を教えていた時分、英法科に籍を置いていた私は廊下や校庭で行き逢うたびにお時儀じぎをした覚えがあるが、漱石は私の級を受け持ってくれなかったので
文壇昔ばなし (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
鬼の酋長は驚いたように、三尺ほどうしろへ飛びさがると、いよいよまた丁寧ていねいにお時儀じぎをした。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
先天的に人から一種温かい軽蔑の心を以て、若しくは憐愍の情を以て、親しまれ可愛がられる性分なのです。恐らくは乞食と雖、彼にお時儀じぎをする気にはならないでしょう。
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あれは蜥蜴とかげではありません。天地を主宰しゅさいするカメレオンですよ。きょうもあの偶像の前に大勢おおぜい時儀じぎをしていたでしょう。ああ云う連中は野菜の売れる祈祷の言葉をとなえているのです。
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
其の日は表の通用門から番人にお時儀じぎをして這入って、正面の玄関の傍にある細格子の出入り口を開けると、直ぐに仙吉が跳んで来て廊下伝いに中二階の十畳の間へ連れて行った。
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
誰やら柴のとぼそをおとづれるものがあつたによつて、十字架くるすを片手に立ち出でて見たれば、これは又何ぞや、藁屋の前にうづくまつて、うやうやしげに時儀じぎを致いて居つたは、天から降つたか、地から湧いたか
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と、飛び上りさうにすると、ピヨコンと一つお時儀じぎをしながら笑つてみせて
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
保吉は丁寧にお時儀じぎをした。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、飛び上りさうにすると、ピヨコンと一つお時儀じぎをしながら笑つてみせて
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、飛び上りそうにすると、ピョコンと一つお時儀じぎをしながら笑ってみせて
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)