敵娼あいかた)” の例文
それ故娑婆しゃばの悦びもこれでおしまいかと思えば興奮のあまり、昨夜敵娼あいかたの頬をメロンだメロンだと叫んでかぶりついたのであるが
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
と誘われてくと、悪縁と云うものは妙なもので、増田屋の小増は藤屋七兵衞の敵娼あいかたに出る、藤屋七兵衞の年は二十九だが、品が好い男で
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其処で私は第二段の予定行動として、当夜の敵娼あいかたの言を頼り、毎夜終演迄の三十分間を、——浅草の寿座の楽屋裏に身を潜める事に致しました。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
早や大引おおびけとおぼしく、夜廻よまわり金棒かなぼうの音、降来る夕立のように五丁町ごちょうまちを通過ぎる頃、屏風のはしをそっと片寄せた敵娼あいかた華魁おいらん
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
笹屋に戻ると、以前の広間に、内蔵助のうき大尽は、敵娼あいかた浮橋うきはしの膝に体をもたせかけ、辻咄つじばなしの徳西だの、瀬川竹之丞だの、幇間末社たいこまっしゃにかこまれて
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不図ふと自分の部屋の障子がスーといて、廊下から遊女おいらんが一人入って来た、見ると自分の敵娼あいかたでもなく、またこのうちの者でも、ついぞ見た事のない女なのだ。
一つ枕 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
「え? だんながたはおふたりでござりますのに、お敵娼あいかたは、あの、おひとりでよろしゅうござりまするか」
敵娼あいかたはいずれもその傍に附き添い、水をんでやる、掛けてやる、善吉の目には羨ましく見受けられた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
周章あわてて止めたのは、敵娼あいかた中将の白絹のような顔へ、虎髯とらひげの顎をしばしば寄せて、中将にひどく嫌われながら、自分では一人でいい気持ちになっている、千葉介貞胤で
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして半平は、あくまでも亡妻への貞操を死守するつもりだったのである。彼のエネルギッシュな敵娼あいかたの理解を得ることができず、ついに暴力をもって征服されちまったのである。
幸運の黒子 (新字新仮名) / 海野十三(著)
敵娼あいかたの選択をヤリテ婆に問われたとき、言下にこう云ったことは有名だった。「ほんとに惚れんでもよいから、惚れたマネをする女をよんでくれい」
敵娼あいかたとなるべき人を遊女屋から招きよせて、しまり屋はしまり屋のごとくに感興を買い、はで好きはまたはで好きのように感興を買ってからはじめて揚げ屋へ参り
その家々うち/\ふうで変りはありますが、敵娼あいかたの義理から外の女郎じょろうを仕舞わせるほど馬鹿々々しいものはありますまい。それぐらいならどぶの中へ打捨うっちゃる方が遥かましでしょう。
敵娼あいかたの女が店を張りにと下りて行ったすきうかがい薄暗い行燈あんどう火影ほかげしきり矢立やたての筆をみながら、折々は気味の悪い思出し笑いをもらしつつ一生懸命に何やら妙な文章を書きつづっていた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一方ひとかたではない、如何どういうわけか跳起はねおきる気力も出ないで、違う違うと、ただ手を振りながら寝ていたが、やがてまた廊下に草履ぞうりの音が聞えてガラリと障子がくと、此度こんどは自分の敵娼あいかたの顔が出た
一つ枕 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
「俺の敵娼あいかたに出て来た女、ご丁寧な黒あばたさ」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、彼の敵娼あいかたがいった。その敵娼の女は、ふすまに耳をつけて、奥でする高声へじっと、息をこらしていたが
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一個はべらせようぞ。珠数屋の大尽とか申す町人の敵娼あいかたは、何と言う太夫じゃ