放埓ほうらつ)” の例文
彼は放埓ほうらつを装って、これらの細作の眼を欺くと共に、併せてまた、その放埓に欺かれた同志の疑惑をも解かなければならなかった。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そう/\、そう仰しゃれば思い出した、あの時ぽろりとお泣きなすった……それからあなたの身請の相談、これは本心放埓ほうらつで、かたき
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
放埓ほうらつな気の荒い父親が、これまでに田舎で働いて来たことや、一家のまごつき始めた径路などが、おぼろげながら頭脳あたまに考えられた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
家に厳父あって、慈母は陰にひそみ、わがままや放埓ほうらつができなくとも、家訓よく行われ、家栄えるときは、その子らみな楽しむ。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわち豊臣氏は覆滅ふくめつしたが、徳川氏の政治は緒についたばかりという、混沌と統一、絶望と希望、平和と不安、秩序と放埓ほうらつ、闇と光明など
さすが放埓ほうらつの三人も、昔の遊び友達の利左の浅間しい暮しを見ては、うんざりして遊興も何も味気ないものに思われ、いささか分別ありげな顔になって宿へ帰り
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
寝室と云うのは、例の屋根裏の部屋のことで、そこには今でも彼女の荷物が置いてあり、過去五年間の不秩序、放埓ほうらつ、荒色のにおいが、壁にも柱にもみ着いています。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
普通の娘の我がままや放埓ほうらつとは訳が違うので、父には一種の不憫が出て、結局はそのなすがままにまかせていたが、娘ひとりを出してやることは何分不安であるので
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ただ彼らの仕事と安静とを邪魔する放埓ほうらつにたいしてだけ、いかなる方面をも問わず反発する。
いつも酒ばかり飲んで放埓ほうらつであったから、父の某は臨終に家中の井戸亀右衛門を枕頭に招き、わが死後は伜の行状を厳重に監督してくれ、とくれぐれも頼んで息を引きとった。
酒渇記 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
それではたまらぬと、そこで兄藤次郎にはすまぬと影に手を合わせながら、わざと種々の放埓ほうらつに兄を怒らせて、こうして実家いえへもよりつかずに繋累けいるいを断った栄三郎ではないか。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大久保加賀守かがのかみの血につながる一族で、ちょうどこの事件のあった十年まえ、あれなる青まゆの女を向島の葉茶屋から退かして正妻に直したころから、しだいにその放埓ほうらつが重なり
そしてなんとなく良心が、ある放埓ほうらつののちのように、苦情を言っているような気がした。
一時的な関係から起こってくる放埓ほうらつな生活——というようなことにはおちいりません。
奥さんが、ごくわずかの間であったけれども、苦界というものに身を沈めていて、今年の始に新井田氏の後妻として買い上げられたのだという事実は渡瀬の心をよけい放埓ほうらつにした。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ひと目見ただけでこのやしきで、どんな放埓ほうらつな生活が送られていたかわかります。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「大弥太殿の放埓ほうらつと申して、どのような所業なされますのかな?」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
放埓ほうらつの日のやうにつらからず
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
しかし、それは内蔵助殿のように、心にもない放埓ほうらつをつくされるよりは、まだまだ苦しくないほうではございますまいか。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
洛内の騒擾そうじょうにもせむかい、ときには、伝奏でんそうをもつこうまつる北面のともがらが、近ごろの、放埓ほうらつなる素行そこうは、何ごとぞや、遠藤盛遠に似たるは、ひとりやふたりとも思えぬ
「矢堂は放埓ほうらつ者かもしれませんが藩士です。それを白洲へ呼び出して、商人などと並べてさばきにかけるということは、家中かちゅうぜんたいの面目にかかわると思うんですがね」
改訂御定法 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
勇壮滑稽こっけいな戦争、放埓ほうらつな祭礼、道化た奇声、大袈裟おおげさな子供じみた喜びをもってるジャヌカン的な恋歌、海上の暴風雨、鳴り響く島とその鐘が含まっていて、最後の牧歌的な交響曲シンフォニーには
領民達の妻女、娘なぞを十一人もかすめ奪り、沙汰の限りの放埓ほうらつ致しおると承わったゆえ、早速に兄がらしめに参ろうと思うたが、わるいことにきやつめ、兄と面識のある間柄なのじゃ。
此の者は越中国えっちゅうのくに射水郡いみずごおり高岡の町医の忰で、身持放埓ほうらつのため、親の勘当を受け、二十歳はたちの時江戸に来て、ある鍼医はりいの家の玄関番に住込み、少しばかり鍼術はりを覚えたので、下谷金杉村かなすぎむらに看板をかけ
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「あなた様のお力づよいご祈祷で、良人の放埓ほうらつの心持ちが、少しなりと治ること出来ましたら、どのようにわたしは嬉しいことか。……しゅうとご様しゅうとめ様にも安心しましょうし、近郷近在の人達までも、喜ぶことでございましょう」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
内蔵助は、こう云う十内の話を、殆ど侮蔑されたような心もちで、苦々にがにがしく聞いていた。と同時にまた、昔の放埓ほうらつの記憶を、思い出すともなく思い出した。
或日の大石内蔵助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それが、青春の放埓ほうらつへむかって、いつでも、崩れんとしているのを、何かに、あやうくささえられているだけのかれにすぎない。父ならぬ父忠盛の愛が支柱であった。
放埓ほうらつの存分をやったあげく、藩の禁足を破って出奔した折に、母の梅颸が、身も痩せ、夜も眠られぬ憂苦ゆうくのうちに詠んだ歌で、それを茶山が記憶していたものである。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曹操はいい気になって、いよいよ機謀縦横に悪戯わるさをしたり、放埓ほうらつな日を送って育った。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)