手筐てばこ)” の例文
「あの晩、気分が悪いからと御両親を呼寄せ、御不浄ごふじょうへ行くと言って、お父様の手筐てばこから鍵の束を取出し、それを誰に渡したんです」
枕許まくらもとの、矢張やはたなにのつた、六角形かくがたの、蒔絵まきゑ手筐てばこをおけなすつたんですよ。うすると、……あのお薬包くすりつゝみと、かあいらしい爪取剪つめとりはさみ一具ひとつと、……
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つぶやいた。彼の足許あしもとへ身を寄せるようにして、色紙で貼交はりまぜの手筐てばこのような物を作っていたさえは
彩虹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
手筐てばこの底にめ置きし瀧口が送りし文、涙ながらに取り出して心遣こゝろやりにもり返せば、先には斯くまでとも思はざりしに、今の心に讀みもて行く一字毎にはらわた千切ちぎるゝばかり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
手筐てばこのうちから出して、範宴のまえにおいた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの晩、氣分が惡いからと御兩親を呼寄せ、御不淨ごふじやうへ行くと言つて、御父樣の手筐てばこから鍵の束を取出し、それを誰に渡したんです」
派手すぎてなまめかしいような着物や帯がえ、かんざし、なかざし、くしこうがい手筐てばこ、文庫、手鏡などという風に。——真沙はつとめて悦ぼうとした、なかには本当に嬉しい物もあったから。
柘榴 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
上総屋吉兵衛はよほどの決心で佐野の屋敷に行ったらしく、手筐てばこの中には万一の場合のために、遺書が用意されてあったということが分りました。
朱塗の手筐てばこは、早くも仕舞ひ込んだ平次。十手を懷へネヂ込むと、すそをつまんで、サツと外へ出ます。まことに慣れた手順で、一分一厘のすきもありえせん。
朱い手筐てばこの證文を、三之助へやるまいとしたのも、つまりは行々ゆく/\自分のものにするつもりだつたので御座います
「寝間の枕元の手筐てばこの中に入れるが、寝間へは誰も入って来ない。唐紙にはいちいちさんがおろしてある」
「寢間の枕元の手筐てばこの中に入れるが、寢間へは誰も入つて來ない。唐紙には一々さんがおろしてある」
そこへ五日目の晩の事——娘が氣分を惡くしたり手洗へ行つたり、夜中に庭へ出たといふ話を聞いて、父親の手筐てばこから鍵を盜んだのがあの娘に違ひないと氣が付いたよ
中から出て來たのは、少し古くなつた桐柾きりまさの箱で、そのふたを取ると、中に納めてあるのは、その頃明人みんじん飛來ひらいかんといふ者が作り始めて、大變な流行になつて來た一閑張かんばり手筐てばこ
俺に万一のことがあったら、用箪笥ようだんすの中の朱塗しゅぬり手筐てばこを、中味ごとそっと妻恋坂の倅へ届けてくれ。その中には諸大名を始め、江戸中の大商人に貸した金の証文が一杯入っている。
少し古くなった桐柾きりまさの箱で、そのふたを取ると、中に納めてあるのは、その頃明人みんじん飛来一閑ひらいいっかんという者が作り始めて、大変な流行になって来た一閑張の手筐てばこ、もとより高価なものですが
お駒は到頭三之丞を説き伏せてしまいました。二人は二羽の蝶のように、父親の寝部屋に忍び込むと、そっと枕元に這い寄って、手筐てばこの中の鍵と、柱に掛けてある手鍵を持出もちだしました。
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
それが図星に当って、紅皿と筆をお松の手筐てばこに入れたのは、わなに掛ったようなものだ
若葉は黙って手筐てばこの中から一とたばの小菊を取出して、平次の方に押しやりました。
若葉は默つて手筐てばこの中から一とたばの小菊を取出して、平次の方に押しやりました。
石見守は腹心の家来石坂左門次いしざかさもんじに命じて、その黄金を箱根山中の何処どこかに隠させ、後口実を設け、黄金を隠した家来——石坂左門次を斬り、絵図面だけを手筐てばこに入れて、寝間の床下に埋めて置いた
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
小さい手筐てばこの中にいつぞや平次に見せた紅皿の外に、もう一つ使いかけの紅皿があって、それには指でなく、筆の跡があり、その紅を使ったらしい軸の短い紅筆までが添えてあるではありませんか。
小さい手筐てばこの中にいつぞや平次に見せた紅皿の外に、もう一つ使ひかけの紅皿があつて、それには指でなく、筆の跡があり、その紅を使つたらしいぢくの短かい紅筆までが添へてあるではありませんか。
と臨終の床で渡された小さい手筐てばこがあります。