懦夫だふ)” の例文
どっちへ答えてもなじるようにしてだんだん問答を進めますので、その問い方と答え方の活発なる事は真にいわゆる懦夫だふたたしむるの概があるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
攘夷じょうい家の口吻こうふんを免れずといえども、その直截ちょくせつ痛快なる、懦夫だふをして起たしむるにあらずや。述懐じゅっかいの詩にいわく
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
たいして才能もないこの身に対して、劉皇叔りゅうこうしゅくには、三の礼をつくし、かつ、過分な至嘱ししょくをもって、自分を聘せられた。性来の懦夫だふも起たざるを得ぬではないか。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一時の豪気ごうきは以て懦夫だふたんおどろかすに足り、一場の詭言きげんは以て少年輩の心を籠絡ろうらくするに足るといえども、具眼卓識ぐがんたくしき君子くんしついあざむくべからずうべからざるなり。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
関城書は、親房が関城に孤立せし際、親朝がまだ形勢を観望せるに当り、大義を説きて、その心をひるがへさむとせしもの也。辞意痛切、所謂いわゆる懦夫だふを起たしむるの概あり。
秋の筑波山 (新字新仮名) / 大町桂月(著)
一揆征服木村救援の任を果そうとして居るところは、其の魂の張り切りたぎり切って居るところ、実に懦夫だふ怯夫きょうふをしてだに感じて而して奮い立たしむるに足るものがある。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
懦夫だふをして起たしめるひびきがある。ところが、車掌はどこまでも談じつけようとする。なにしろ、この紳士の乗車券を調べないわけには、実際いかないのだろうからね。
鉄道事故 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
「そんなこともなかろうが、読み方によっては、千ざいのち懦夫だふ蹶起けっきせしめるかも知れない」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と、突如午前の平穏な空気を破って隣組の口回覧のふれ声が聞えた。「皆さん、お米の配給がありますッ。」私は一ぺんに眼が覚めた。懦夫だふをして起たしむとはけだしこのことであろう。
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
孟軻マウカ氏曰く、伯夷ハクイの風を聞く者は、頑夫もれんに、懦夫だふも志をたつる有り、又曰く柳下恵リウカケイの風を聞く者は、鄙夫ひふも寛に、薄夫もあつしと、吾人は其生涯の行為、磊々落々らい/\らく/\、天の如く、神の如く
いわゆる懦夫だふをして起たしむとはこの時の事であります。英語ではこれを heroism と名づけます。吾人の heroism に対して起す情緒は実際偉大なものに相違ありません。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
然るに一方にあつて、かくの如き政治上の小人の上に高く位する教養あり真に才能ある人々が懦夫だふとして嘲弄せられてゐる。現代を個人主義全盛の時代であると主張するが如きは極めて滑稽である。
少数と多数 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
方今、日本に於ては朝幕と相わかれ、各々蝸牛角上の争ひに熱狂して我を忘れつつある間に、東北の一隅にかかる大経綸策を立つる豪傑の存在することは、懦夫だふを起たしむる概あるものには無之候哉。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
みるめいがない。懦夫だふに説くような甘言はよせ。窮したりといえど、関羽は武門の珠だ。砕けても光は失わず白きは変えぬ。不日ふじつ、城を出て孫権といさぎよく一戦を
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この時において懦夫だふといえども、なお起つべし、いわんや平生へいぜいの素養あるものにおいてをや。いわんや恩愛の情、知己の感あるものにおいてをや。彼はその子弟に向って我が如くせといえり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「一城を率いる者、それは器で足りよう。一郡を治める者、それも器でよい。だが、三千世界の知識碩学せきがく、乃至、不覊狷介ふきけんかい、乃至、愚婦懦夫だふ、あらゆる凡下ぼんげまでを容れるには、器では盛りきれまい」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大府大番頭だいふおおばんがしらの家名をけがすまいとおもい、また私の両親や兄弟はらからたちにき目を見せたくないばかりに、恋を捨て武士を捨て、血もなみだもない懦夫だふとなり終っていたが、今こそ、岐路きろに立った弦之丞は
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
懦夫だふ! 何を迷う」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)