いきどおり)” の例文
おしまいまで読み終った俺は、烈しい嫉妬といきどおりとを感ずると同時に、突き放されたような深い淋しさを、感ぜずにはおられなかった。
無名作家の日記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
台所の豪傑儕ごうけつばら座敷方ざしきがた僭上せんじょう栄耀栄華えようえいがいきどおりを発し、しゃ討て、緋縮緬ひぢりめん小褄こづまの前を奪取ばいとれとて、かまど将軍が押取おっとった柄杓ひしゃくの采配、火吹竹の貝を吹いて、鍋釜の鎧武者が
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すべてのうらみ、すべてのいきどおり、すべてのうれいかなしみとはこのえん、この憤、この憂と悲の極端より生ずる慰藉いしゃと共に九十一種の題辞となって今になおる者の心を寒からしめている。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
目科は夫を詰らぬ事と言い無理に余をさえぎらんとす、余はむッとばかりにいきどおりしかども目科は眼にて余を叱り、二言と返させずして匆々そこ/\倉子に分れを告げ、余を引摺ひきずらぬばかりにして此家を起立たちいでたり。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
悪魔を八裂きにして、その肉をくらってもあきたりないいきどおりを感じた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
瑠璃子が、入って来れば、の押え切れないいきどおりを、彼女に対しても、もらそう。白痴の子をもてあそんでいるような、彼女の不謹慎ふきんしんを思い切り責めてやろう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
うらみと、ひがみいきどおりとをもって見た世に対して、わば復讎ふくしゅう的におのれが腕で幾多遊冶郎ゆうやろうを活殺して、そのくらい、その血をむることをもって、精魂の痛苦をいやそうとしたが
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そう云いながら、荘田は得々として、瑠璃子の手紙を直也に突き付けたとき、彼の心は火のようないきどおりと、恋人を奪われた墨のようなうらみとで、狂ってしまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
銑吉は話すうちに、あわれに伏せたお誓の目が、いきどおりを含んで、きっとして、それが無念を引きしめて、一層青味を帯びたのに驚いた——思いしことよ。……悪魔は、お誓の身にかかわりがないのでない。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかも美しい彼女の前に出ると、唖のようにたわいもなく、黙り込む自分だった。自分はいきどおりうらみとのためにわな/\ふるえながら而も指一本彼女に触れることが出来なかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「用があるんですか。」と、いきどおりはまだ消えずひややかに答えた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)