すがた)” の例文
すがたは鮮明に、その羽摺れに霧がほぐれるように、尾花の白い穂がなびいて、かすかな音の伝うばかり、二つの紅いすじが道芝の露に濡れつつ、薄い桃色に見えて行く。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
放肆なるはそがすがたなりと、然して歓楽そが被衣たるをわする可からず、或は心神恍惚たり、或は衷に道念寤めて懊悩苦悶あり、情緒揺曳して悲愁暗涙あり、詩のこゝに出でゝ共に可ならざるはなし。
抒情詩に就て (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
いまだ額に波は寄らねども、束髪に挿頭かざせる花もあらなくに、青葉もすぎ年齢とし四十に近かるべし。小紋縮緬ちりめん襲着かさねぎに白襟の衣紋えもん正しく、ひざあたりに手を置きて、少しく反身そりみすがたなり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この腰元ははるといひて、もとお村とは朋輩なりしに、お村はちようを得てお部屋と成済なりすまし、常にあごて召使はるゝを口惜くちをしくてありけるにぞ、今く偶然に枕を並べたる二人ににんすがたを見るより
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
身悶みもだえして帯を解棄て、毛を掻挘かきむしまげこわせば、鼈甲べっこうくし黄金笄きんこうがい、畳に散りて乱るるすがた、蹴出す白脛しろはぎもすそからみ、横にたおれて、「ええ、悔しい!」柳眉りゅうびを逆立て、星眼血走り、我とわが手に喰附けば
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馭者はうなずきて、立てりしすがたを変えて、斜めに欄干に
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)