愛憎あいぞう)” の例文
ことに人に対して愛憎あいぞうの念が起こる時は、いっそう注意してその人の性質の善悪や人格の高下等を批評することをつつしまねばならぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そこには愛憎あいぞうの差別はなかった、すべて平等に日の光と微風との幸福に浴していた。しかし——しかし彼は人間であった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
生存は相殺そうさつである。自然は偏倚へんいゆるさぬ。愛憎あいぞうは我等が宇宙にすがる二本の手である。好悪は人生を歩む左右の脚である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ゆゑ彌子びしおこなひいまはじめかはらざるに、まへにはけんとせられて、のちにはつみものは、(一〇九)愛憎あいぞう至變しへんなり
物事に対する愛憎あいぞうは多い方である。手廻りの道具でも気に入ったの、きらいなのが多いし、人でも言葉つき、態度、仕事のくちなどで好きな人と嫌いな人がある。
伯姫から云えば、現衛侯ちょうおい、位を窺う前太子は弟で、親しさに変りはないはずだが、愛憎あいぞうと利慾との複雑な経緯けいいがあって、妙に弟のためばかりを計ろうとする。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
武家の年寄らしくない、飾りつ氣のない愛憎あいぞうを、平次はこの老女から感ずるのでした。
そういう時には多く道理をもって判断せずして感情を以て愛憎あいぞうほしいままにします。感情を肆にする結果が恋愛という過失におちいって自ら不幸の運命を作り出します。それではどうしたらいいでしょう。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
現実に住み飽きてしまったり、現実の粗暴そぼう野卑やひ愛憎あいぞうをつかしたり、あまりに精神の肌質きめのこまかいため、現実から追い捲くられたりした生きものであって、死ぬには、まだ生命力があり過ぎる。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
されば何事も自己の愛憎あいぞうに走りて囚徒しゅうとを取り扱うの道を知らず。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
身は一けん独立のごとくして、心は娼妓しょうぎよりもなお独立なく他人に依頼し、しかも他人の愛憎あいぞうによりその日を送れるものが多々たたありはせぬか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ゆゑしゆあいせらるればすなはあたりてしんくはへ、しゆにくまるればすなは(一一〇)つみあたりてくはふ。ゆゑ諫説かんぜいは、(一一一)愛憎あいぞうしゆさつしてしかのちこれかざるからざるなり。
失敬ながら君のことはいかなる事があったか知らぬが、よし新聞等に二、三回掲げられたことがあっても、僕ら別に耳にしたこともないし、したがって君に対して愛憎あいぞうの念も何もない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)