恥辱はぢ)” の例文
パリスどのと祝言しうげんするよりもいっ自害じがいせうとほどたくましい意志こゝろざしがおりゃるなら、いゝやさ、恥辱はぢまぬかれうためになうとさへおやるならば
さはいへこれこれでと打明けむは、いかに叔父甥の間柄とはいへ、夫の恥辱はぢとなる事と思へばそれもいはれず。ただ責めを己れ一身に帰して
心の鬼 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
畜生奴ちくしやうめ! 到頭白状させてやつた。』恁う彼は口に出して言つて見た。が、矢張彼は女から享けた拒絶の恥辱はぢを、全く打消すことが出来なかつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
とき恥辱はぢ恐怖おそれとによわきもののこゑをも得立えたてず、いたみ、かなしみ、けるかたちよそほはざるに愁眉しうび泣粧きふしやう柳腰りうえうむちくじけては折要歩せつえうほくるしみ、金釵きんさいしては墮馬髻だばきつ顯實けんじつす。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此世の中から見放された十兵衞は生きて居るだけ恥辱はぢをかく苦悩くるしみを受ける、ゑゝいつその事塔も倒れよ暴風雨も此上烈しくなれ、少しなりとも彼塔に損じの出来て呉れよかし
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
あの狂氣きちがひのやうに立騷たちさわいで多人數たにんずうあひだけて、この柔弱かよわ夫人ふじん少年せうねんとを安全あんぜん端艇たんてい送込おくりここと出來できやう? あゝ人間にんげんはいざと塲合ばあひには、恥辱はぢ名譽めいよもなく、まで生命いのちしいものかと
泣きたいやうな、それほど我は腑の無いやつか、恥をも知らぬやつこと見ゆる歟、自己おのれが為たる仕事が恥辱はぢを受けてものめ/\面押拭ふて自己は生きて居るやうな男と我は見らるゝ歟
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
のつそりでも恥辱はぢは知つて居ります、と底力味あるくさびを打てば、中〻見事な一言ぢや、忘れぬやうに記臆おぼえて居やうと、釘をさしつゝ恐ろしく睥みて後は物云はず、頓て忽ち立ち上つて
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)