後釜あとがま)” の例文
そこで内からは女房のお大が糸を引いて、清七の後釜あとがまに幾次郎を据える段取りになったのですが、主人も直ぐには承知しない。
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一緒にいた芸妓げいしゃあがりらしい女と、母親との折合いがわるくて、このごろ後釜あとがまに田舎から嫁が来ているという事情などもお銀はよく知っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
仮りに吾輩が彼奴の見込み通りに斎藤先生を殺して、その後釜あとがまに座って、コンナ実験をこころみて失敗をして自殺を思い立った人間とするかね。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自身にも言い聴かせて「私は何も前の奥さんの後釜あとがまに坐るつもりやあらへん、維康を一人前の男に出世させたら本望ほんもうや」
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「そればかりじゃありませんよ、お種の阿魔あまは、兵二郎の後釜あとがまはこの私でなきゃア——と言うんで、十手捕縄を放り出したくなるじゃありませんか」
内大臣、左大将、藤原師長もろながが、左大将を辞任した。この顕職の後釜あとがまをねらって、猛烈な就職運動が始ったのである。
僕がやめれば他の誰かが後釜あとがまにすわって僕のやってきたことをやるだけのことで、僕が辞職するということはただ僕が路頭に迷うようになるという以外に
或る探訪記者の話 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ところでそっちの処置かたがついたら、そろそろ後釜あとがまの売りつけ——いやここだて、おれもおっかさんもおまえをな、まあお浪さんのあとに入れたいと思っているのだ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「うむ。源三郎が死んだとありゃア、おれアスッパリと萩乃を思いきる。源三が生きていてこそ鞘当てだ。死んだやつの後釜あとがまをねらうのは、俺にはできねえ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あれはおれの後釜あとがまにすわっただれか別な男だ。おれはゆうべはおれだったが、山の上で寝こんでしまって、鉄砲はかえられるし、何もかも変って、おれまでかわってしまった。
たいへんまれであって、彼等の多くは、たまたま職業を其処にみいだしたのであって、それから後は無論のこと職業意識をもって説教をし、燃えるような野心をもって上役うわやく後釜あとがまねら
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『他の学校へ移すとか、後釜あとがまへは——それ、君の気に入つた人を入れるとかサ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
と叫んで、そつと司会者に訊くと、弁士が弔演説をしてゐる男は、今は課長に昇進して、亡くなつた男がその後釜あとがますわつてゐたのを雄弁家がつい早飲込みにその男だと穿違はきちがへてしまつたのだ。
劉表に身を寄せていた頃から、常に劉表の後釜あとがまをうかがっていた玄徳じゃないか。いわんや、蜀の劉璋などに、なんの斟酌しんしゃくを持っているものか。すべて彼と孔明の遷延策せんえんさくにほかならぬものだ。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猫にまでひがみを持つのか知らんと、面当てゞなくさう感じたものだつたけれど、今度自分が後釜あとがまへ直つてみると、自分は品子と同じ扱ひを受ける訳でもなく、大切にされてゐることは分つてゐながら
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「親方を退けた後釜あとがまに坐ることなど、とても、出来ません」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
その後釜あとがまが、源さんという訳よ
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
その後釜あとがまに直らうとしたが、お縫は武家の出で、氣性も腕も確りして居るので、お鮒などの手に合はず、白痴の猪之助が、死ぬ程自分に惚れて居るのを利用し
そうして私の後釜あとがまには、私が初歩から教育した敏腕家で、この二三年の間に異数の抜擢ばってきを受けた私の腹心の志免不二夫しめふじおが、警視に昇進すると同時に坐ることになった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
マダムは死際しにぎわに、浜龍にはどうせ好い相手があって、家を出るだろうから、銀子は年も行かないから無理かも知らないけど、気心がよくわかっているから、マダムの後釜あとがまになって
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
前にお話し申した通り、お角は神原の屋敷の馬丁と出来合っていたのですが、その馬丁の平吉が挙げられると、すぐに国蔵という後釜あとがまをこしらえる。そのほかに写真屋の島田と関係する。
半七捕物帳:59 蟹のお角 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とよがかあいそうだからお浪さんを退いてもらおうというかと思えば、もうできそうになると今度アお浪さんがかあいそう! そんなばかな事は中止よしとして、今度はお豊を後釜あとがまに据える計略ふんべつが肝心だ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
猫にまでひがみを持つのか知らんと、面当てゞなくさう感じたものだつたけれど、今度自分が後釜あとがまへ直つてみると、自分は品子と同じ扱ひを受ける訳でもなく、大切にされてゐることは分つてゐながら
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
左官正太を名乗る帆村探偵は、巧みに吉治の後釜あとがまに入りこんだ。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
猫にまでひがみを持つのか知らんと、面当てでなくそう感じたものだったけれど、今度自分が後釜あとがまへ直ってみると、自分は品子と同じ扱いを受ける訳でもなく、大切にされていることは分っていながら
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)