後手ごて)” の例文
武家屋敷に係り合いの仕事は元来面倒であるとは云いながら、今度の一件は万事が喰い違いの形で、とかくに後手ごてになったのは残念でならない。
後手ごてを食っちゃあ万事おしまい、そこで、七兵衛は手拭を鷲掴わしづかみにして、すっくと湯壺の中から立ち上りました。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その舌先の効目ききめもなく、新九郎が真っ向へ第一刀を振り込んで来たので、なおさら彼は後手ごてになり、危うく身をかわしながら、包光かねみつの大刀を横に払って
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで、残念だが仕方が無い、小田原がつぶされて終ってからでは後手ごての上の後手になる、もう何をいても秀吉の陣屋の前に馬をつながねばならぬ、と考えた。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
八丁堀の組屋敷へ帰る途中、青木千之助はしきりに、後手ごてを取った自分のふがいなさを責めた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
安兵衛 八丁徳さんは後手ごてに廻り、人数を集めたんだが散っていて碌に集まらねえ。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「しかし、いくら急いでみても、僕らはもう後手ごてを引いているのかもしれませんよ」
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
翌日になるとの僧がまた来た。心待こころまちに待っていた三左衛門はすぐ碁盤を出して、まずじぶんせんでやってみた。先でやってみると昨日きのうのように勝った。そして、後手ごてでやるときっと負けた。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
万一こちらが後手ごてになりますれば、源次郎さまの御一命にもかかわる場合、いわんやさまざまに作りごとされ、風評どおり源次郎さまが野伏乞食の児であったなどということになりましたら
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それに中川ノ宮以下の長袖と組んでいる。蔵田氏などの考えも最後の目的は公武合体ではあろうが、当面尊攘を目標とする限り、一日待てば一日の後手ごてになるのは明白。拙者は自重派には不賛成だな。
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
せいし惣右衞門こともとは御家來に候とも當時は御いとまの出でたる者ゆゑ是非はかくも彼の方へ連退つれのきかくまふと申す程のことなれば渠等かれら根深ねぶかたくみたると相見え候へば勿々なか/\以て容易の儀には參るまじれば何事も此方にて後手ごてならざる樣に表向おもてむき御吟味御請おうけなさるべしと申しければ主税之助は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ぬかった! なぜ先に死に物狂いで、三、四人風呂場の中へこっちから飛び込まなかったかと、後手ごてを悔いるように、捕手の武士たちは、叱咤しったを交わしあった。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あんな坊主を上方へ向けて置いて、あっちで策戦をすれば、今時、こんなに後手ごてを食わずに済んだものだろう、そこは、あの坊主も、内心残念がっているようだが、なんにしても
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
起こした、われわれは某侯の忠告に縛られていて、一門一家のうちどの人が加担しているかわからず、したがって根本的な対策がとれない、いつも後手ごて、後手と追われるよりしかたがなかった
三左衛門と僧は夕方まで石を持っていたが、一勝一敗、先手せんてになる者が勝ち後手ごてになる者が負けて、はなはだしい懸隔けんかくがなかったので非常に面白かった。碁が終って僧が帰ろうとすると三左衛門が云った。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それに中川ノ宮以下の長袖と組んでいる。蔵田氏などの考えも最後の目的は公武合体ではあろうが、当面尊攘を目標とする限り、一日待てば一日の後手ごてになるのは明白。拙者は自重派には不賛成だな。
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
「だが、それも後手ごてだったよ」
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「それからでは、後手ごてを踏むおそれもある。どうせ一ト波瀾は見るところ。それならこっちからせんを取って、桃花山の願いも入れ、呼延灼にも、一ト泡吹かせた方がいい」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
謙信はすでに、迷いなく、ここへ邁進まいしんして来つつあるのに信玄は、事態の直前に、味方の布陣をえなければならないという必要に——つまり後手ごてに立たされてしまったのである。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近衛河原の主人の邸へ火をけた後、宮のお後を慕って、馳せ参じたが、何分、もう戦は後手ごてとなって守備が整わないため、そこから南都へ向おうと、僧兵をも加えて宮のお供に立ち
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後手ごてを食った。飼犬に手をまれた!」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まさに、すべては六波羅の後手ごてだった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それでは遅い、後手ごてだわ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後手ごてだ。ざまはない!」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「また、後手ごてを喰ったか」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)