帝釈天たいしゃくてん)” の例文
上に梵天ぼんてん帝釈天たいしゃくてん、下は四大天王も照覧あるべしと、物々しい誓いを立てゝみても、そのような一片の紙きれを以て収まる筈はないのであった。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その左右に帝釈天たいしゃくてんのような青白い穏かなかおが、かえって物凄い無気味さを以て、三つまで正面首の左右にっついている。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
むか阿修羅あしゅら帝釈天たいしゃくてんと戦って敗れたときは、八万四千の眷属けんぞくを領して藕糸孔中ぐうしこうちゅうってかくれたとある。維摩ゆいまが方丈の室に法を聴ける大衆は千か万かその数を忘れた。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大勢の吟友ぎんゆうと、柴又の帝釈天たいしゃくてんへ吟行した帰り途の昼遊びに、俗に吉原では伏見河岸とよばれる辺の安女郎に、ぼくの童貞も、五十銭程度のゲ代で惜しみなく洗礼をうけてしまった。
鬼神でもあなた様を取り込めてしまうことはできないはずです。人が非常に惜しむ人は帝釈天たいしゃくてんも返してくださるものです。お姫様を取ったのは人にもせよ鬼にもせよ返しに来てください。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
四隅に護持する増長ぞうじょう持国じこく広目こうもく多聞たもんの一丈の四天王をはじめ、この間に佇立する梵天ぼんてん帝釈天たいしゃくてん密迹王みっしゃくおう金剛王こんごうおう不動明王ふどうみょうおう、地蔵尊、弁才天、吉祥天きっしょうてん、及び北面する秘仏、執金剛神しゅうこんごうじん
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
鳴雪めいせつ翁より贈られたるは柴又しばまた帝釈天たいしゃくてんの掛図である。この図は日蓮にちれんが病中に枕元に現はれたといふ帝釈天の姿をそのまま写したもので、特に病気平癒へいゆには縁故があるといふて贈られたのである。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
松の根はいわの如く、狭い土地一面に張り出していて、その上には小さい木箱のような庚申塚こうしんづか、すこし離れて、冬枯れした藤棚ふじだなの下には、帝釈天たいしゃくてんを彫り出した石碑が二ツ三ツ捨てたように置いてある。
曇天 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
帝釈天たいしゃくてん綽名あだなのある谷口という小頭こがしらだ。
監獄部屋 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
柴又しばまた帝釈天たいしゃくてん境内けいだいに来た時、彼らは平凡な堂宇どううを、義理に拝ませられたような顔をしてすぐ門を出た。そうして二人共汽車を利用してすぐ東京へ帰ろうという気を起した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それに南蛮胴の鎧と云い、水牛の抱角だきづの帝釈天たいしゃくてんの兜と云い、邪推をすれば、内面の弱点を人に見透みすかされまいとして、いてそう云う威嚇的な扮装ふんそうをしたと思われぬでもない。
前述の如くそれには水牛の抱角だきづのの脇立があるのだが、その外に尚前方鍬形台くわがただいの所に、鬼をまえた帝釈天たいしゃくてん前立まえだてが附いている。次にその鎧の一部が南蛮胴であることも、何となく異常な感を起させる。
須永はあきれたような顔をしていて来た。二人は柴又しばまた帝釈天たいしゃくてんそばまで来て、川甚かわじんといううち這入はいって飯を食った。そこであつらえたうなぎ蒲焼かばやきあまたるくて食えないと云って、須永はまた苦い顔をした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)