山水さんすい)” の例文
それは無論であるが、時と場所とで、おのずから制限されるのもまた当前とうぜんである。英国人のかいた山水さんすいに明るいものは一つもない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ちゃんと床の間へあがりこんで、山水さんすいじくの前にユッタリ腰を下ろし、高見の見物とばかり、膝ッ小僧をだいているではないか!
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかしそれよりはっきりと僕の記憶に残っているのは、何かの拍子に「お師匠さん」の言った「だれとかさんもこのごろじゃ身なりが山水さんすいだな」
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
青絵というのは、染付そめつけのことで、呉須土ごすどいた南画なんがめいた構図で、よく寒山拾得かんざんじっとくのような人物や山水さんすいなどが、達筆に密画でなく描かれていた。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
清三の孤独なさびしい心はこれを聞いて、まだ見ぬところまだ見ぬ山水さんすいまだ見ぬ風俗にあくがれざるを得なかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
この男が自分の倪雲林げいうんりん山水さんすいぷく、すばらしい上出来なのを廷珸に託して売ってもらおうとしていた。価は百二十金で、ちょっとはないほどのものだった。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それは十三四歳の茶坊主で、待たせてある喜右衛門に茶でも運んで来たのかと思うと、かれは一向に見向きもしないで、床の間にかけてある紙表具の山水さんすいの掛物に手をかけた。
半七捕物帳:41 一つ目小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
内庭の向うを覗くと、なるほど、斑竹はんちくのすだれ越しに、花瓶かびんの花、四ふく山水さんすい掛軸かけじく香卓こうたく椅子いすなどがいてみえる。——燕青えんせい禿かむろの女の子の手へ、そっとおかねを握らせた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
絶佳明媚ぜっかめいび山水さんすい粉壁ふんぺき朱欄しゅらん燦然さんぜんたる宮闕きゅうけつうち、壮麗なる古代の装飾に囲繞いにょうせられて、フランドル画中の婦女は皆脂肪あぶらぎりて肌白く血液に満ちて色赤く、おのが身の強健に堪へざる如く汗かけり。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
人の記憶のの上に心の国の山水さんすい
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
帳面を開けると、第一ページに林学博士のH君が「本邦ほんぽう山水さんすいに似たり」とふるってしまったあとである。その次にはどこどこ聯隊長れんたいちょう何のなにがしと書いてある。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
絶佳ぜっか明媚めいび山水さんすい粉壁朱欄ふんぺきしゅらん燦然さんぜんたる宮闕きゅうけつうち、壮麗なる古代の装飾に囲繞いじょうせられて、フランドル画中の婦女は皆脂肪あぶらぎりてはだ白く血液に満ちて色赤く、おのが身の強健に堪へざる如く汗かけり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その座蒲団は更紗さらさの模様を染めた真丸の形をしたものなので、敬太郎は不思議そうにその上へすわった。とこには刷毛はけでがしがしと粗末ぞんざいに書いたような山水さんすいじくがかかっていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
然れども日本の気候と天象てんしょう草木そうもくとは黒潮こくちょうの流れにひたされたる火山質の島嶼とうしょの存するかぎり、永遠に初夏晩秋の夕陽せきよう猩々緋しょうじょうひの如く赤かるべし。永遠に中秋月夜ちゅうしゅうげつや山水さんすいあいの如く青かるべし。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
然れども日本の気候と天象てんしょう草木そうもくとは黒潮こくちょうの流れにひたされたる火山質の島嶼とうしょの存するかぎり、永遠に初夏晩秋の夕陽せきよう猩々緋しょうじょうひの如く赤かるべし。永遠に中秋月夜ちゅうしゅうげつや山水さんすいあいの如く青かるべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)