寡言むくち)” の例文
「そんぢやぢい砂糖さたうでもめろ」とおつぎは與吉よきちだい籰棚わくだなふくろをとつた。寡言むくち卯平うへい一寸ちよつと見向みむいたきりでかへつたかともいはない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
平常の寡言むくちで沈重な彼とは——まったく別人のように、知性をかなぐり捨てた修羅武者になっていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おやじ様、この仇をどうする」と、寡言むくちの伝四郎は憤怒に燃える眼をかがやかして父に迫った。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
阿繊は寡言むくちで怒るようなこともすくなかった。人と話をしてもただ微笑するばかりであった。昼夜つむいだりったりして休まなかった。それがために上の者も下の者も皆阿繊を可愛がった。
阿繊 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
その上私は彼に言葉をかけ慣れてゐなかつた。彼の寡言むくちはまたひどくなつて、私の打解けた心もその下にこほりついて了つた。彼は私を妹達と同じやうに思ふといふ約束を守つてくれなかつた。
あなたは寡言むくちです
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
れことわすれたんべら、かくつたとおもつてたつけが本當ほんたうわかんねえほどかくつたな」寡言むくち卯平うへい種々いろ/\饒舌しやべつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ひとりは女中らしい二十歳はたちばかりの女で、一人は十六ぐらいのお嬢さん、もう一人はこの阿母おかあさんらしい四十前後の上品な奥さんで、みんな寡言むくちなつつましやかな人達だから
河鹿 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あなたは寡言むくちです。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しか卯平うへい老衰らうすゐやうやくのことでけたこゝろそこわだかまつた遠慮ゑんりよ性來せいらい寡言むくちとで、自分じぶんから要求えうきうすることは寸毫すんがうもなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
伝四郎は今年二十歳はたち独身者ひとりもので、これも父に似て骨格のたくましい寡言むくちの男であった。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
先生は元来が寡言むくちの方で、ふだんでも家庭上必要の用件以外には、あまり多く奥さんやお嬢さんと談話をまじえない習慣であるので、今度の問題についても深く語らないであろうことは
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
元来が温順の性質らしいが、さりとて寡言むくちというでもなく、陰鬱というでもなく、いかにも若々しいような調子で笑いながら話しつづけた。どう見ても、彼は一個の愛すべき青年である。
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
江戸者ではいけない、なんでも親許おやもとは江戸から五里七里は離れている者でなければいけない。年が若くて、寡言むくちで正直なものに限る。それから一つは一年の出代りで無暗むやみに動くものでは困る。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
寡言むくちの彼も今夜は無器用な冗談などを時どきに言って、女どもに笑われた。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お亀は今年十七になるお蝶という娘を相手に、永代橋のきわに茶店を出している。お蝶は上品な美しい娘で、すこし寡言むくちでおとなし過ぎるのを疵にして、若い客をひき寄せるには十分のあたいをもっていた。
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)