奥底おくそこ)” の例文
すがすがしい天気てんきで、青々あおあお大空おおぞられていましたが、その奥底おくそこに、ひかったつめたいがじっと地上ちじょうをのぞいているようなでした。
冬のちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
次郎は、先生夫妻に対してすまないという気で一ぱいになりながらも、心の奥底おくそこでは、それが楽しくてならないのだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
牧師の家に生まれましたから、小さい時分から祈りにはなれておりましたが、その朝ほど心の奥底おくそこから祈ったことはいままでにありませんでした。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
もっと、ここに書くのも気恥きはずかしいほど、あまったるい文句も書いてありました。で、ぼくは大切に、一々トランクの奥底おくそこにしまい込んでいたのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
それは、人の心の奥底おくそこまで、しみとおるほどでした。皇帝は、心からよろこんで、自分の金のスリッパを、ナイチンゲールの首にかけてやるように、と言いました。
柿丘秋郎には、普通の眼には見えない胸の奥底おくそこがハッキリ見えた。そのうちにも、あとからあとへと激しいせきに襲われそのたびにドッドッと、鮮血せんけつを吐き散らした。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ちょうどきとおった水をとおして見るように、その音楽おんがくとおして彼の心の奥底おくそこまでもみとられそうだった。クリストフはこれまで、そんなふうな歌いかたをきいたことがなかった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
といいながら、大きな口をあけて、奥底おくそこもなく長閑のどかな日の舌にむかと笑いかけた。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あおい、あおい、奥底おくそこから、一つ、一つほしひかりかがやきはじめて、いつのまにか大空おおぞらは、まいたようにほしがいっぱいになったのです。
星と柱を数えたら (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたすかぎり、くさ灌木かんぼくしげった平原へいげんであります。さおそらは、奥底おくそこれぬふかさをゆうしていたし、はるかの地平線ちへいせんには、砲煙ほうえんともまがうようなしろくもがのぞいていました。
戦友 (新字新仮名) / 小川未明(著)