変貌へんぼう)” の例文
旧字:變貌
島々の天然が近世に入って、激しい変貌へんぼうげたことは何処いずこも同じだが、この大島などはさらに特殊な社会的原因を附加している。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
喰いちぎってやりたい……人間が人間を喰いちぎる……一瞬にして変貌へんぼうする女の顔がパッと僕のなかで破裂したようだった。
火の唇 (新字新仮名) / 原民喜(著)
僕らの感じているのは、実は寺でなくて博物館ではないか。この無意識の変貌へんぼうを僕は最もおそれる。信仰にとっては致命的だ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
今更のように、彼等は、平治の乱や保元の頃のおもを、新たに語りだして、二十年の歳月をふりかえり、にわかに、世の中の変貌へんぼうに目をみはり出した。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たくみな化粧で変貌へんぼうしたX夫人を先年某料亭で見て変貌以前を知って居る私が眼前のX夫人の美に見惚みほれ乍ら麻川氏と一緒に単純に讃嘆さんたん出来なかった事
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
神保町のにぎやかな通りで、ふとある大きな書店の裏通りへ入ってみると、その横町の変貌へんぼうは驚くべきもので、全体が安価な喫茶と酒場に塗りつぶされていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あるいはマルコ伝ですぐ次に記されている山上変貌へんぼうの記事、すなわちイエスの御貌おかおが神の栄光をもって輝いたのをペテロ、ヤコブ、ヨハネの三人が見たのは
実にこの叙事詩エピック抒情詩リリックの対立は、人間に於ける二つの感情——情緒と権力感情——との二大分野を示すもので、人文の歴史がある限り、たといその形式は変貌へんぼうしても
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
第二葉の写真の顔は、これはまた、びっくりするくらいひどく変貌へんぼうしていた。学生の姿である。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その傾向が近頃妙な工合に変貌へんぼうして、不作法な柄の悪い言語動作をちらつかせるようになった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そしてようやく落ち着きかかったとき世の中がにわかに変貌へんぼうをはじめたのであった。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
自分を補強し変貌へんぼうすることが、その先進国を相手にまわしながらつよく自分を生かすために、是非必要のことだったのであるが、そうした文化工作が形の上でも質の上でも成果を見せるには
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
それにもかかわらず麻川氏が変貌へんぼう以後のX夫人に、葉子より先に葉子の欠席した前回のこの会でい、それが麻川氏とX夫人との初対面であった為めか
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それは彼自ら東国の一方にっていたせいもあろうが、歴史の極りない転変と地上の変貌へんぼうのみを思って、この国土が、いかに乱に遭っても、いつか帰一し、いかにみだれても
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自然に少しずつゆがめられて、遂に全く日常語から変貌へんぼうした特殊のものになったのだろう。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
後には変貌へんぼうの山にも(九の二)、ゲッセマネの園にも(一四の三三)、ひそかなる祈りの場に三人の愛弟子を伴い給いましたが、今はまだそのような信頼をかけるべき者は一人もいないのです。
列車の窓が次々に送り迎える巍然ぎぜんたる街衢がいく、その街衢と街衢との切れ目毎にちらつく議事堂の尖塔せんとうを遠望すると、今更に九年の歳月と云うものの長さ、———その間には帝都の変貌へんぼうのみならず
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
督戦とくせんしていたが、変幻極まりない武田軍の陣容は、たちまち変貌へんぼうして、左右に迫り、へたをすれば、うしろ巻きしている家康自身の陣地が、浜松と遮断しゃだんされそうな形になった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時としてはまた、往来を歩くすべての人が、猫の変貌へんぼうした人間のように見えたりした。
ウォーソン夫人の黒猫 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
夜景全局を刹那に地獄相じごくそう変貌へんぼうせしめまた刹那にもとの歓楽相にもどす。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
と袁紹父子おやこが、その本陣から前線の将士へ、伝騎を飛ばした時は、すでに彼らの司令本部も、五寨の中核からだいぶ位置を移して、前後の連絡はかなり変貌へんぼうしていたのであった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この「叙事詩」と「抒情詩」とは実に西洋詩の二大範疇はんちゅうと言うべきもので、古典韻文の既に全く凋落ちょうらくした近代に至っても、なお或る変貌へんぼうした形に於て、本質上から互に対立している有様である。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
仏教にもいろ/\の変貌へんぼうを来たしたが、中にも、肉感的美欲を充足させつゝ、それを通して魂の永遠の落付きどころをのぞかせるには、感覚的な対象となる宗教的器具設備が最も時機相応であつた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ふるき人、新しき人、また、新旧両道の人など——この信貴山の一怒濤いちどとうにも、或いはほろび、或いはおこり、或いはぼっし、或いはあらわれ——時代の激動は、この地上に、変貌へんぼうあます所もなかった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)