含嗽うがい)” の例文
清逸は寝たまま含嗽うがいをすると、頸に巻きつけている真綿の襟巻をはずして、夜着を深く被った。そして眼をつぶって、じっと川音に耳をすました。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
高低さまざまな泣き声が、惨澹さんたんたる諧調をつくりながら、いつまでも続く。ひとりが、含嗽うがいをするような声で叫んだ。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
毎朝含嗽うがいをされた水をコップに受けて、これで眼を洗うといいというので、毎朝それを実行されていたことである。
御殿の生活 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
四十五分もかかって含嗽うがいをしたり、五通りものブラシで歯をみがいて、口の中をこの上もなく清潔に保っていた。
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
ただ冷水で含嗽うがいをするだけの自由を医師から得たので、余は一時間のうちに、何度となく含嗽をさせて貰った。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
関守氏は、やおら起き出でて、かけひの水で含嗽うがいを試みようとする時、米友はすり抜けて、早くも庭と森の中へ身を彷徨ほうこうさせて、ちょっとその行方がわかりません。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼女は、咽喉のどの奥から笑いを転がし出して、含嗽うがいをした。そして急に、執事のような真面目な顔を作った。それから、この椿事ちんじを説明すべく、両方のひじを左右へ振った。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
康子はそう云いながら含嗽うがい茶碗を枕元に置く、清三は康子の顔を正面に見ることができなかった。
須磨寺附近 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして朝夕には過酸化水素水で、含嗽うがいをした。止むを得ない用事で、外出するときには、ガーゼを沢山詰めたマスクを掛けた。そして、出る時と帰った時に叮嚀ていねいに含嗽をした。
マスク (新字新仮名) / 菊池寛(著)
口を含嗽うがいし、席を清めて、謹んでお迎えあるべきに、座もうごかず、杯盤はいばんの間へ私を通し、あまつさえ臣下の丁儀が頭から使者たる手前に向って……汝、みだりに舌を動かすな。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう時は水を口へ入れて幾度いくど含嗽うがいするに限ります。飲んではいけません。飲むとかえって後の渇きを増します。この事は人の習慣で段々慣れると一日水を飲まずに済みます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と、その時ふいに、低いゴロゴロゴロゴロと云う含嗽うがいするような音につづいて、木の上をはげしくたたく音が聞えて来た。ホームズは気違いのように部屋を走っていって、ドアを押した。
つまり一日中酒のの切れる時がない。しかし大正エビの言葉がうそであることは、同室になってやっと判った。彼は付添婦を買収して、薬瓶(含嗽うがい用の大瓶)に酒を買って運ばせていた。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
かれらは元日の黎明に若水汲んで含嗽うがいし、衣を改めて芝浦、愛宕山、九段、上野、待乳山まつちやまなどに初日の出を拝し、帰来屠蘇雑煮餅を祝うて、更に恵方詣をなす、亀戸天神、深川八幡、日枝神社
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
そうして看護婦が持って来た塩水で恐る恐る含嗽うがいをして、すすめられるまにまに熱い紅茶を一杯飲み終ったが、やっと気が落ち付いたらしく、口の周囲を拭いまわしながらソロソロと顔を上げた。
霊感! (新字新仮名) / 夢野久作(著)
白紫色に華やぎ始めた朝の光線が当って、ひらめく樹皮は螺線状らせんじょうの溝に傷けられ、溝の終りの口は小壺こつぼくわえて樹液を落している。揃って育児院の子供等が、朝の含嗽うがいをさせられているようでもある。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「到頭おしるこで含嗽うがいをなさいましたね?」
閣下 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
含嗽うがいしてるの。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
信者らが含嗽うがいして
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これは洗面と含嗽うがいの水なのですが、そのとき部屋の隅にある香炉キャサレット竜涎香りゅうぜんこうを投げいれる。
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「いや、顔ばかりではありません。含嗽うがいもいたし、手足てあしも浄めて来た次第ですが」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
歯痛しつうおのずからおさまったので、秋におそわれるような寒い気分は、少し軽くなったけれども、やがて御米が隠袋ポッケットから取り出して来た粉薬を、ぬるま湯にいてもらって、しきりに含嗽うがいを始めた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まるで、含嗽うがいでもするような音をたてながら、いつまでも泣きつづけているのでした。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
吾輩の主人は毎朝風呂場で含嗽うがいをやる時、楊枝ようじ咽喉のどをつっ突いて妙な声を無遠慮に出す癖がある。機嫌の悪い時はやけにがあがあやる、機嫌の好い時は元気づいてなおがあがあやる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
口叱言くちこごとつぶやきながら、裏へ出て、奥庭の泉水から流れてくる水で、含嗽うがいしていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
洗面所へ入って顔を洗ったり含嗽うがいをされたりした。タオルの端と洗面器の中に葉巻の微小片と食物の残滓が残っていました。……御存知の通り、洗面所は扉で料理場に続いている。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
裏へ出て、井戸で含嗽うがいを[#「含嗽を」は底本では「含※を」]していると
御鷹 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時枕元で含嗽うがいを上げましょうという森成さんの声が聞えた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『旦那様、お含嗽うがいをなさいませ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)