前借ぜんしやく)” の例文
「所で、さういふ前借ぜんしやく方法を提供したのは僕ですから、僕の方の原稿料は成るべく安くまけて貰ひたいもんですね。」
この時、彼女を女郎にする手續上不都合のため、良人周三と法律上離婚させられたこと、さうして、この遊廓内での半年の間に、前借ぜんしやくが八百五十圓にふえたこと。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
ふくろはおしないてるので、勘次かんじ不足ふそく婿むこおもつてはなかつた。勘次かんじそのくれまた主人しゆじんまかせるはず前借ぜんしやくした給金きふきんを、おしなうちんだのでおふくろかへつよろこんでた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私は早速さつそく用談に取りかかつた。近々きんきん私の小説集が、この書肆から出版される。その印税の前借ぜんしやくが出来るやうに、一つ骨を折つて見てはくれまいか。——これがその用談の要点であつた。
塵労 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それでゐて、健の月給はたつた八円であつた。そして、その八円は何時いつでも前借ぜんしやくになつてゐて、二十一日の月給日が来ても、いつの月でも健には、同僚と一緒に月給の渡されたことがない。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それはかれわづかあひだ放浪者はうらうしやおそろしさをおもつて、假令たとひどうしてもその統領とうりやうあざむいて僅少きんせう前借ぜんしやくかねたふほど料簡れうけんおこされなかつたのである。うち張元ちやうもとから葉書はがきた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)