分限者ぶげんしゃ)” の例文
彼はまた、優に千両の無尽にも応じたが、それほど実力を積み蓄えた分限者ぶげんしゃは木曾谷中にも彼のほかにないと言われるようになった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
天保てんぽう頃の江戸の分限者ぶげんしゃの番附では、西の大関に据えられている、千万長者の家へもらわれて行ったのですが、それは今で云う政略結婚で
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
城下町から三里ほど離れたところに由利団右衛門という分限者ぶげんしゃがいた。どれくらいの大判小判を持っているか見当がつかない。
本所分限者ぶげんしゃの一人に数えられている吾妻屋あずまや金右衛門が、昨夜誰かに殺されていることを、今朝になって発見した騒ぎでした。
千利久は茶器の新旧可否を鑑定して分限者ぶげんしゃになった男だが、親疎異同しんそいどうによって、贋物にせもの真物ほんものしんと言い張って、よく人を欺いたということである。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
歩哨 おお、いえ、四月初めにお呼出を受けた物持分限者ぶげんしゃの中で、これまで出頭しなかった者で。沼田まで来てウロウロしていたので連れて参りました。
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
傲然ごうぜんとしてやって来たのは、一見して成り上がり者の分限者ぶげんしゃと思われる赤ら顔の卑しく肥った町人でした。
それではこの女に資本を下ろしてやって機械を作らせ、どんどん小判をこしらえさせれば、たちまちにして分限者ぶげんしゃになるわけだと——彼は声を小さくして訊いた。
京の或る分限者ぶげんしゃが山科の寺で法会ほうえいとなんだときに、大勢の尊い僧たちが本堂にあつまって経をした。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「じつはあれからの旅路で、この地方のちょうと仰っしゃる分限者ぶげんしゃに行き会い、その方のお情けに囲われて、今では娘の翠蓮も、この土地で一戸を持っておりますので」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名誉職も分限者ぶげんしゃも教職員も自ら乗気になって出演の決心をつけた。どんな歌詞かは知らぬが鬼涙きなだ音頭なる小唄も出来て「東京音頭」の節で歌われるということであった。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
それぞれの職人を使って造らせる山椒大夫さんしょうだゆうという分限者ぶげんしゃがいて、人なら幾らでも買う。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
新橋に半玉おしゃくに出たが、美貌びぼうと才能は、じきに目について、九州の分限者ぶげんしゃに根引きされその人にしに別れて下谷講武所したやこうぶしょからまた芸妓げいしゃとなって出たのが縁で、江木衷博士夫人となったのだ。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
其妻が徳川時代の分限者ぶげんしゃ洒落しゃれれた女房にょうぼのように、わたしゃ此の家の床柱、瓶花はなは勝手にささしゃんせ、と澄ましかえって居てくれたなら論は無かったのだが、然様そうはいかなかった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何兵衛が貧乏で、何三郎が分限者ぶげんしゃだ。徳右衛門には、田を何町歩持っている。それは何かにつれて、すぐ、村の者の話題に上ることだ。人は、不動産をより多く持っている人間を羨んだ。
浮動する地価 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
同じ渡海とかいを渡世にしていても、北条屋は到底とうてい角倉かどくらなどと肩を並べる事は出来ますまい。しかしとにかく沙室しゃむろ呂宋るそんへ、船の一二そうも出しているのですから、一かどの分限者ぶげんしゃには違いありません。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「今和尚さんが言い御座ったろうが。福岡一の分限者ぶげんしゃの娘たい」
歩哨 おお、いえ、四月初めにお呼出しを受けた物持分限者ぶげんしゃの中で、これまで出頭しなかった者で。沼田まできてウロウロしていたので連れて参りました。
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
そういう隠居は木曾谷での屈指な分限者ぶげんしゃと言われることのために、あの桝田屋ますだやと自分の家とが特に小前の者から目をつけられるのは迷惑至極だという顔つきである。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「磯の安松と、伊賀屋の源三郎と、両手に花とふざけていたお喜美が、——親の秋山佐仲の入智恵もあったことでしょうが、本郷で指折りの分限者ぶげんしゃ、田原屋の嫁になる気になった」
もともと養父金兵衛は木曾谷での分限者ぶげんしゃに数えられた馬籠の桝田屋惣右衛門ますだやそうえもん父子の衣鉢いはつを継いで、家では造り酒屋のほかに質屋を兼ね、馬も持ち、田も造り、山林には木の苗を植え
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)