)” の例文
政宗の様子はべて長政に合点出来た。長政はそこで上洛じょうらくする。政宗も手をつかね居てはならぬから、秀吉の招喚に応じて上洛する。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
べて神聖しんせいものはてよろこびる。われらがしゆきみはこのあかいばらうへに、このわがくちに、わがまづしい言葉ことばにも宿やどつていらせられる。
女は芳野と云うその界隈かいわいでの物持の後家であった。あの印形屋の看板と同じように、べての謎は解かれて了った。私はそれきりその女を捨てた。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
べてがゆうべの通りである、——瀕死の女の悲しげな呻き、紙を引裂くような奇妙な音、伊藤青年は総身に水を浴びたように、慄然として息をのんだ。
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
火山の中はべてが「大きな単純」であるから、注意して観察すれば、風の描いた紋も解るのである、もっともこういう現象は、火山とのみ限られることではないが
日本山岳景の特色 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
がれよ、こゝに萬物ばんぶつは、べてうつろぞ、日はかむ。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
下町のいきと云われる茶屋の板前に感心して見たり、仁左衛門にざえもん鴈治郎がんじろうの技巧を賞美したり、べて在り来たりの都会の歓楽を受け入れるには、あまり心がすさんでいた。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あぶのブンブンうなるのを聞きながら、いい心持に眠くなってきた、べて生けるもの、動けるものの、肉から発する音響という音響を、一切断絶して、静の極となった空気の中で
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
それからメトラス博士と云うのは、あのヤンセン牧師と同じ、××国から廻されて来た軍事探偵で、常に要塞地帯の写真などを撮らせていたのですが、それらはべて今度抑えてしまいました。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
がれよ、こゝに万物は、べてうつろぞ、日はかむ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
一つ入れますで。——但シ、下名ノ保管スル証書ガ虚構ノ事実ニもとづケルモノナル時ハベテノ約束ヲ無効トス、——なあ、こない書いといても差支いあれしませんやろ?
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
べてのカアル皆然しかりとは言われないが、カアルの初期は、雪が横一文字にうずたかくなっているに過ぎないが、その両端の垂下力が遅く、中央が速いためか、第二期には三日月形に歪み
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
人生れ、人いの眠り、つま恋ふるべてこゝなり
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
これはべてあっと云う間の出来事だった。
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もうその時分の夫いうたらべての運命に従順になってしもてて、自分が第二の綿貫にさされること拒まんばっかりか、かいってそれ幸福に感じてるらしいて、薬飲むのんも
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
鉄物かなものは、べて包むことにした、雨は小止みになったり、また大降りになったりする、大降りのときは、油紙の天幕の中央が、天水桶のように深くなって、U字形に雨水の重味で垂れ下る
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
そしてべてが森閑しんと鎮まりかえった。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
顔面のべての道具が単に物を見たり、いだり、聞いたり、語ったりする機関としては、あまりに余情に富み過ぎて、人間の顔と云うよりも、男の心を誘惑する甘味ある餌食えじきであった。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)