凄気せいき)” の例文
旧字:凄氣
叫んで、さっと身をすさったが、三島が必死の刃は、圧する凄気せいきと共に、対馬守の肩先に襲いかかった。しかしその一刹那である。
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
「しかし、あの虹の告げ口だけは、どうすることも出来ません」と法水はさらに急追を休めず、凄気せいきを双眼にうかべて云い放った。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
噂は、めぬ悪夢のように孟州城内を暗くした。以後幾日かは、城外盛り場の灯すらともらず、沼のような凄気せいきが昼も冷たく吹いていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近いうちにこの切先が、私の手の内で何人かの血を吸うであろう……と思うと一道の凄気せいき惻々そくそくとして身に迫って来る。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あまりに静まり返ったために、何となく、あたりいっぱいに漂う一道の凄気せいきが、ここの一間の行燈あんどん火影ほかげにまで迫って来るようでありました。ほどなく
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それが彼のその時の夢ではそう行かなかった。その不思議な変化がどこまでも不思議で、その上それが一種の凄気せいきのようなものをさえ感じさせるのだった。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
別にいろいろの不思議を見たり聞いたりしたわけでもないのだが、家具のないある部屋の前を通ると、なんとも説明することの出来ない一種の凄気せいきにうたれるのだ。
さすがに持扱もてあつかひて直行の途方に暮れたるを、老女は目をほそめて、何処いづこより出づらんやとばかり世にもあやしき声をはなちてゆるく笑ひぬ。彼は謂知いひしらぬ凄気せいきに打れて、覚えず肩をそびやかせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
女の、その声は嬉しそうに輝いていたが、どこか凄気せいきのある青くさい声音であった。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
松岡長吉は水際みずぎわに身をひいて、うしろに川を置き、構えるようにした。とらえどころのないばくとした凄気せいきを身に受けた。——そのとき、彼らは夜に乗じていた。いと口はこんなつまらぬ口論でよかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
しかし正成は、なお、ゆとりあるものとして、南々西なんなんせい一帯の海から山へ眼をすましていた。刻々、風は凄気せいきはらみ出す。午前十時をやや過ぎる。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身の毛をみののようによだてて立ち上った瞬間を最初に認めたのは、清澄の茂太郎ひとりでしたけれども、その凄気せいきに襲われたのは船の人すべてでありました。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一見するに凛烈りんれつ、人を圧するような気品と凄気せいきをたたえて羽織はかまに威儀を正しながら雪の道に平伏している姿は、どうやら、一芸一能に達した名工、といった風貌ふうぼうの老人なのです。
その顔は死相と紙一の白さだ。生き物の必死がしめす或る凄気せいきさえおびている。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
慇懃いんぎんな礼儀のあいだであるが、何かしらさっと肌じまるような凄気せいきがながれた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「では」というと、蝶番ちょうつがいの金具がキイと……悲しむように鳴った。この一瞬になると、並いるもの誰彼の境なく、痛快とか悲壮とかいうものを超えて、一種の凄気せいきに歯の根がみしまる。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四十名を出ない小勢といえ、覚悟を一つにかためて、いざ来い——となると、なお数千の兵があった狐塚の今朝方などよりも、遥かにりんたる志気も示され、凄気せいき、敵を睥睨へいげいする概もあった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今朝、寺のかけひの水で、起抜おきぬけに顔を洗うときから、善鬼のおもてには、夜来の感情がすこしもぬぐわれていないのみか、むしろ、そそ毛立っているような凄気せいきをすら——典膳は、ひそかに見ていた。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしその青い面色に一まつ凄気せいきは見せたものの、依然、言葉はしずかに。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その容子が、諸将のおもてに、さっと凄気せいきをながした。その唇々くちぐちから
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名月の面にも墨を吹いたような凄気せいきただよっている。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何か、寄り難い凄気せいきに吹かれた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)