円柱まるばしら)” の例文
旧字:圓柱
帰りは、みきを並べたとちの木の、星を指す偉大なる円柱まるばしらに似たのを廻り廻つて、山際やまぎわに添つて、反対のかわを鍵屋の前に戻つたのである。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
左右に開く廻廊には円柱まるばしらの影の重なりて落ちかかれども、影なれば音もせず。生きたるは室の中なる二人のみと思わる。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
旅魚屋の傳次は本堂へ出ましたが、勝手を知らんから木魚につまづき、前へのめるはずみに鉄灯籠かなどうろうを突飛し、円柱まるばしらで頭を打ちまして経机きょうづくえの上へ尻餅をつく。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
博士は躊躇せずに飛び込んだ。ああ密室の奇怪なことよ! 計り知られぬ円柱まるばしらが、室を支えて立っている。室の中央に厳そかに、石造の棺が置いてある。
木乃伊の耳飾 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
甃石しきいし亀裂さけている個所もあり、玄関へ上る石段の磨滅すりへっている家もあったが、何処の家にも前世紀の厳めしいポーチと、昔の記憶を塗込めた太い円柱まるばしらがあった。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
折々クサンチスは台から下へ降りて来て、大勢が感嘆してめぐり視てゐる真中に立つて、昔アルテミスのほこらの、円柱まるばしらの並んだ廊下で踊つた事のある踊をさらつて見る。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
示しながら「怪しからん構造物があるじゃないか。この円柱まるばしらが二つに割れたり、それから中に階段があったり、物置に抜けられたり、一体これは如何いかなる目的かネ」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ほんの小ちやな藁屑でも、天井のしつかりした梁になるし、よごれた葉つぱの茎でも強い円柱まるばしらになるのだ。大工達は、近所の森とも云ふやうな草叢の中を探険して其等の木切れを選ぶのだ。
平屋根の上には、一だんたかく、金めっきしたりっぱな円屋根まるやねがそびえていました。建物のぐるりをかこむ円柱まるばしらのあいだに、いくつもいくつも大理石の像が、生きた人のようにならんでいました。
ただ、所々丹塗にぬりげた、大きな円柱まるばしらに、蟋蟀きりぎりすが一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路すざくおおじにある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠いちめがさ揉烏帽子もみえぼしが、もう二三人はありそうなものである。
羅生門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そばなる鉄の円柱まるばしらを小指もてゆらゆらと
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
日の本の東西にただ二つの市の中を、徐々しずしずと拾ったのが、たちまちいなずまのごとく、さっと、照々てらてらとある円柱まるばしらに影を残して、鳥居際からと左へ切れた。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鼻の先から出る黒煙りは鼠色ねずみいろ円柱まるばしらの各部が絶間たえまなく蠕動ぜんどうを起しつつあるごとく、むくむくとき上がって、半空はんくうから大気のうちけ込んで碌さんの頭の上へ容赦なく雨と共に落ちてくる。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
赤土の色きれいに掃きたる一条ひとすじの道長き、右左、石燈籠いしどうろう石榴ざくろの樹の小さきと、おなじほどの距離にかわるがわる続きたるをきて、こうかおりしみつきたる太き円柱まるばしらの際に寺の本堂に据えられつ
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤土あかつちの色きれいにきたる一条ひとすじの道長き、右左、石燈籠いしどうろう石榴ざくろの樹の小さきと、おなじほどの距離にかはるがはる続きたるをきて、こうかおりしみつきたる太き円柱まるばしらきわに寺の本堂にゑられつ
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その眉の上なる、朱の両方の円柱まるばしら
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)