便宜たより)” の例文
私の全心が愛のほのほで燃え尽きませうとも、それを知らせる便宜たよりさへ無いぢやありませんか、此のまゝがれて死にましても
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
お杉が照す蝋燭の淡い光を便宜たよりに、市郎は暗い窟の奥へ七八けんほど進み入ると、第一の石門せきもんが眼の前に立っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
我はメッセル・マルケーゼを見たり、この者フォルリにありし頃はかく劇しきかわきなく且つ飮むに便宜たより多かりしかどなほ飽く事を知らざりき 三一—三三
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
点数のと騒ぐに、千々岩は郷党の先輩にも出入り油断なく、いやしくも交わるに身の便宜たよりになるべき者を選み、他の者どもが卒業証書握りてほっと息つく
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
御身自ら彼が許にゆきて、親しくその痍を見せなば、なほ便宜たよりよからんと思ひて、われは行かでやみぬ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
徳を慕ひ風を仰いで寄り来る学徒のいと多くて、其等のものが雨露凌がん便宜たよりもとのまゝにては無くなりしまゝ、猶少し堂の広くもあれかしなんど独語つぶやかれしが根となりて
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
もしみませぬと、とてみちつうじません、ふりやんでくれさへすれば、雪車そります便宜たよりもあります、御存ごぞんじでもありませうが、へんでは、雪籠ゆきごめといつて、やまなか一夜いちやうち
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
仏蘭西窓を右に避けて一脚の机をえる。蒲鉾形かまぼこなりに引戸をおろせば、上からじょうがかかる。明ければ、緑の羅紗らしゃを張り詰めた真中を、斜めに低く手元へけずって、背を平らかに、書を開くべき便宜たよりとする。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ心外なるはこの上かの艶書ふみの一条もし浪子より中将に武男に漏れなば大事の便宜たよりを失う恐れあり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
彼はなおその顔を見届けようと、おぼろ雪明ゆきあかり便宜たよりじっと見詰めている時、たちまち我が背後うしろあたって物の気息けはいを聴いたので、忠一は驚いてきっみかえると、物のおとは又んだ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
徳を慕い風を仰いで寄り来る学徒のいと多くて、それらのものが雨露しのがん便宜たよりもとのままにてはなくなりしまま、なお少し堂の広くもあれかしなんど独語つぶやかれしが根となりて
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
……思えば、それも便宜たよりない。……
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この隙を見て、市郎はいそがわしく燐寸まっちった。蝋燭の火のゆらめく影を便宜たよりにして、の怪物の正体を見定めようとする時に、一人の男がぬッと眼前めさきへ現われた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)