あな)” の例文
女は泣くもの歎くものと昔から許されていることも、口先ではあなどっているものの、衷心ではほんとに美しいこともある。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
柳の色の厚織物の細長に下へ萌葱もえぎかと思われる小袿こうちぎを着て、薄物の簡単なをつけて卑下した姿も感じがよくてあなずらわしくは少しも見えなかった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
葉子は、その手を払いのけ、黒吉の片足をあなどって、いきなり身をかわして逃げ出そうとした時だった。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そしてかれらがなおやかましく叫びたてるのを聞いていたが、ふと志保のほうへふり返って、「お母さま、おとなというものは妙ですね」といかにもあなどり顔に云った。
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かれかれこれこれかげになりてのお指圖さしづ古參こさん婢女ひとあなどらず明日きのふわすれしやうらくになりたるはじようさまの御情おなさけなり此御恩このごおんなんとしておくるべききみさまにめぐはゞ二人共々ふたりとも/″\こゝろ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
口元くちもとあなどりの波がかすかにれた。余の言葉を洒落しゃれと解したのだろう。なるほど洒落とすれば、軽蔑けいべつされるあたいはたしかにある。智慧ちえの足りない男が無理に洒落れた時には、よくこんな事を云うものだ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かがみゐて寒き日向や下心したふかくあなづる子らにひま與へけり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
同じく大椀に添へ山葵わさび大根ねぎ海苔のり等藥味も調とゝのひたり蕎麥は定めて太く黒きものならんつゆからさもどれほどぞとあなどりたるこそ耻かしけれ篁村一廉いつかどの蕎麥通なれど未だ箸には掛けざる妙味切方も細く手際よく汁加减つゆかげん甚はだし思ひ寄らぬ珍味ぞといふうち膳の上の椀へヒラリと蕎麥一山飛び來りぬ心得たりと箸を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
かがみゐて寒き日向や下心したふかくあなづる子らにひま与へけり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「閑静な電車ですね」と自分があなどるように云った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)