侠気きょうき)” の例文
旧字:侠氣
それに、彼の持ちまえの侠気きょうきというか、功名心というか、そうしたものが、彼自身でも気づかない間に、そろそろと頭をもたげていた。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
侠気きょうきとたのもしさとをその目に物語らせながら、ぎろり若者の面を見すえたものでしたから、ようやく男も安心と決意がついたのでしょう。
その寡欲かよくと、正直と、おまけに客を愛するかみさんの侠気きょうきとから、半蔵のような旅の者でもこの家を離れる気にならない。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
若松屋惣七は、商人の柄になく、出さなくてもいいところへ金を出したりして、侠気きょうきといえば侠気だが、それでいま苦しんでいるというのである。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一通りの親切や侠気きょうきでは出来ないことで、細かいことを云えば円タクその他の足賃にしても相当遣っているであろう。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
血つづきのせいかおてつに似て、おおまかな侠気きょうきはだな性分らしく、しかしさすがにおてつよりははるかにおちついた、大きな宿の主婦らしい貫禄かんろくがあった。
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
母がぱっぱという出任でまかせのわが子に対しても見境いない憎悪の言葉を耳にとがめて、反射的にたしなめるそのことが一時の忠義立てや侠気きょうきす業にしても
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
侠気きょうき、胆力、度量、むしろ女性にはあらずもがなの諸徳を、この老女は多分に持っているには違いありません。
それで亭主の方はどうかと云うと、離婚を申し込まれた時は侠気きょうきを起してさっそく承知したのみならず、離別後も常にシェリングと親密な音信をしていたそうであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
才気と侠気きょうきが備わっているので、人をぎょすのが上手、町人になって、屋根請負うけおいを始め、やがて、諸侯の普請ふしん人足を請負うようになり、また、土地の売買をやったりして
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大口屋暁雨ぎょうう侠気きょうきと、男達おとこだて釣鐘庄兵衛の鋭い気魄きはくを持って生れながら、身分ちがいの故に腹を切るという、その頃では、まだ濃厚に残っていた差別待遇をふうした作を残している。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
侠気きょうきの点を酌量しゃくりょうされて佐渡送り——お初は、一年あまり、牢屋ぐらしをして、出て来たのだったが、それ以来、彼女は一生かえれぬところへ送られた情人の渡世に転向して、やがて
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
途中で親分に逢ったのを幸い、親分の侠気きょうきすがって、一緒に行ってもらいました。
この亀沢町の家の隣には、吉野よしのという象牙ぞうげ職の老夫婦が住んでいた。主人あるじは町内のわか衆頭しゅがしらで、世馴よなれた、侠気きょうきのある人であったから、女房と共に勝久の身の上を引き受けて世話をした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と砂馬から、侠気きょうきに富んだ返事を貰ったが、すぐ二日ほどして、俺は
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
なおいっそうのたのもしさと侠気きょうきとを言外に含めて、男の悲しみと苦痛を、その大きな胸へ抱き包むように尋ねました。
浮世絵師うきよえしが夢に見そうないい女で、二十しっぱちあぶらの乗り切った女ざかり、とにかく、すごいような美人なのが、性来せいらい侠気きょうきわざわいして、いつの間にかこうして女遊人に身を持ち崩し
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
お涌に取つて女中のために蝙蝠を運んで行つてやる侠気きょうき以上の張合ひであつた。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
俊亮が例の侠気きょうきと大まかさから、店に使ってやることにしたのだった。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
言いざまにかしらがまずまっさきにもろはだぬぎになりましたから、勇みと侠気きょうきと伝法はおよそ江戸鳶の誇りです。
お涌は大人にこれほど叮嚀ていねいに頼まれる子供の侠気きょうきにそそられて承知した。
蝙蝠 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
二つにはまた引取手のない無縁仏を拾いあげてねんごろに菩提ぼだいとむらってやろうとの侠気きょうきから、身内の乾児達こぶんたちに命じて毎夜こんな風に見廻らしている土左船どざぶねなのでした。
お涌は大人にこれほど叮嚀ていねいに頼まれる子供の侠気きょうきにそゝられて承知した。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
見れば見捨てておけぬ侠気きょうきからとはいいじょう、死を選ぼうとした男のために、それほども愛し恋していた女のもとを代わって訪れようとする今のおのが身をふりかえると