依怙地いこじ)” の例文
「遅いからもうそうと断りましたが、多の市さんは依怙地いこじな方で、こんな大雪にわざわざ来たんだからと、無理に入り込んで——」
早瀬がああいう依怙地いこじもんですで。半分馬鹿にしていて、孤児院の義捐ぎえんなんざ賛成せんです。今日は会へも出んと云うそうで。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
執拗しつように丸太の柱につかまっている一寸法師と、それを又依怙地いこじに引きはなそうとしている紫繻子、その光景に一種不気味な前兆が感じられた。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
こんなことまでしても腰をすえようとするそのしかたがあまり依怙地いこじなので、『大清』のほうでも癪にさわったが、さりとてどうすることも出来ない。
顎十郎捕物帳:18 永代経 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その様子が彼を依怙地いこじにならした。冗談だか真剣だか分らない気持でぶつかっていった。彼女は本当に怒りだした。
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
妻のようすは少しも変らず、むしろしばしば、それ以前よりも冷やかで、依怙地いこじな態度をみせるようにさえなった。
竹柏記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ルナアルのある種の「狭さ」と「依怙地いこじ」とが、せっかくの花園を豊かに茂らせないでいるという意味であろう。
だんだんさびれて、町の古い住民だけが依怙地いこじに伝統を誇り、寂れても派手な風習を失わず、わば、滅亡の民の、名誉ある懶惰に耽っている有様でありました。
老ハイデルベルヒ (新字新仮名) / 太宰治(著)
三人とも彼の後ろ姿をじっと見送り、自分らの上役が急いでゆくことをいぶかっていた。Kが車に乗ることをやめたのは、ある種の依怙地いこじさというものだった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
軽蔑でもされたように自分の心を依怙地いこじなものに固めてしまいました——それで、無性に沈黙していたのですが、沈黙すればするほど、その一管の音は、いよいよ鮮やかに
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
依怙地いこじのくせに算筆も人よりけていたというので、お組頭の側にいて、種々いろいろな仕事があるたびに、帳付けをさせられていたというが、そのころ異人の黒船が日本国の海岸に
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
予ハ婆サンニたしなメラレテ一層依怙地いこじニナッタ。ソノ癖手ノ冷エ方ハマス/\激シカッタ。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
小心で馬鹿正直で、そのくせどっか依怙地いこじな貧農気質かたぎが、血をけた鷲尾にはよくわかる。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
だが相手も依怙地いこじに思われるほど強硬に後へ退かない。そう云われるとよけい辛くなります、減った分は私に払わして下さい、と主張する。馬鹿を云うな、と私は呶鳴りつける。
下手な事をやられて、変に勘違いをされたり、依怙地いこじになられては困ってしまう。石子刑事は、気が気ではなかった。重ねて口を開こうとするとたんに玄関で案内を乞う声が聞えた。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
殊にまだ二十歳はたち前の未熟なうちから、年上の女と、こういう変則な生活をして来た青春が、いつのまにか、青年らしい意気に欠け、卑屈にしぼみ、依怙地いこじゆがんでしまったのも、当り前だった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、彼はとめられればとめられるほど、依怙地いこじになった。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
断っても依怙地いこじで帰らないから仕様事なしにお前が弥八の代りに揉んで貰って、何とはなしに口止めの心算つもりで二百はずんだ
私は多少依怙地いこじにもなって、前にはほんの三十分ほど浚ってやるだけだったのですが、それから後は一時間か一時間半以上、毎日必ず和文英訳と文典とを授けることにしたのでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのかわりまた、(あの安東村の紺屋の隣家となりの乞食小屋で結婚式を挙げろ)ッて言うんでしょう。貴下はなぜそう依怙地いこじに、さもしいお米のを気にするようなことを言うんだろう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両脇りょうわきに子供をひきつけ、依怙地いこじなほど身体をこわばらせている石のようなお安の後姿を、主水は歎息たんそくするような気持で見まもった。扶持ふちを離れたといっても、明日の生計たつきに困るわけではない。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
骸骨にきまっている。わしはよっぽど開かないで置こうかと思った。併し、わしの執念は、理性を超越して、自動機械みたいに依怙地いこじになっていた。わしは、その最後の棺さえもあばき始めた。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
両肱りょうひじを張って、息もせずに、そうしていると、何と、感じたものだろうか、依怙地いこじで、猜疑さいぎぶかくて、執念づよい小動物は逃げもせず、かえって鋭い光をその眼に加え、じいっと、いつまでも
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ソウナルト予ハイツモノ癖デ依怙地いこじニナリ、直グニハ立チ上ロウトシナイ。シカシマス/\冷エテ来ルノガ感ジラレタ。婆サンハコンナ時ハ心得テイルノデ、決シテ執拗しつこクハ注告シナイ。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
本来だと、朋友ともだちが先生の令嬢をめとりたいに就いて、下聴したぎきに来たものを、聞かせない、と云うも依怙地いこじなり、料簡りょうけんの狭い話。二才らしくまた何も、娘がくれた花だといって、人に惜むにも当らない。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むしろ、依怙地いこじにも見えるくらいな、冷静なおももちをしている。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「いや」と依怙地いこじに濡れ雪のうえに坐りこんでしまった。
白雪姫 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
サト子は、依怙地いこじになって、みなのそばに立っていた。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
依怙地いこじなまでに無器用なやりかたを。
黒い手帳 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)