人伝ひとづて)” の例文
旧字:人傳
この寺の墓所はかしょに、京の友禅とか、江戸の俳優なにがしとか、墓があるよし、人伝ひとづてに聞いたので、それを捜すともなしに、卵塔らんとうの中へ入った。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分の行きたくて行かれない処の話を、人伝ひとづてに聞いては満足が出来なくたった。あらゆる面白い事のあるウィインは鼻の先きにある。
その後再び東京へ転住したと聞いて、一度人伝ひとづてに聞いた浅草あさくさ七曲ななまがり住居すまい最寄もよりへ行ったついでに尋ねたが、ドウしても解らなかった。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
どうにもこうにも手のつけられないどうらく者であったということは、自分も人伝ひとづてによく聞かせられて、事実そうだと信じている。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一言半句の人伝ひとづてをしてくることもなく、去年の秋から冬を越して、もうやがて、この春も、また沙汰なしに暮れようとしている。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雪子の父の白鬚しろひげの品の好いお爺さんは、「頼んでも大江へ貰うて貰へばよかつたのに」と、残念がつてゐるとのことを私は人伝ひとづてに聞いた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
外国から帰った当時、先生の消息を人伝ひとづてに聞いて、先生は今鹿児島の高等学校に相変らず英語を教えているという事が分った。
「もう一年も顔を見せません。娘のお美代が売られて行く時だって人伝ひとづてに教えてやったのに、逢いにも来ない奴でございます」
その三度目が、この中へ入れた「羅生門」である。その発表後間もなく、自分は人伝ひとづてに加藤武雄君が、自分の小説を読んだとう事を聞いた。
羅生門の後に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ところが何だかそれをたいへん恨みに思っておいでになるように、人伝ひとづてに聞きました。震災でそのお方も行方不明になってしまわれたのでございます
墓地の殺人 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
尤も同君は目撃した訳では無く、人伝ひとづてに聞かれたのであるから、間違った所で抗議にも及ぶまい。し又白い岩があって、それが花崗岩であるなら面白いと思う。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
千寿 そんな噂は、わしも人伝ひとづてには聞いたがのう。藤様は、口をつぐんで何もいわれぬのでのう。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あるいは古歌古書に拠り、あるいは人伝ひとづてに聞き、あるいは絵画写真にてその地の大概を知りたる後、これを歌に詠む事はなきにあらねど、それすら常にする事にあらず。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
一年の後、何千マイル隔てた海と陸の彼方で、息子が五十セントの昼食にも事欠きながら病と闘っていることを人伝ひとづてに聞いたトマス・スティヴンスン氏は、流石さすがに堪えられなくなって、救の手を差しのべた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ふたつながら胆が薬用さるるからマルコの大蛇と鱷と同物だとは、不埒ふらちな論法なる上何種の鱷にもマルコが記したごとき変な肢がない。予おもうにマルコはこの事を人伝ひとづて聞書ききがきした故多少の間違いは免れぬ。
それを人伝ひとづてに聞いた時、上田博士は
彼は、自分が親しく見たわけではあるまいが、人伝ひとづてにしても、手に取るようにその現場の状況を聞いて知っているらしい。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何でも私が人伝ひとづてうけたまわりました所では、初めはいくら若殿様の方で御熱心でも、御姫様はかえって誰よりも、素気すげなく御もてなしになったとか申す事でございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それに久し振りで貴方あなたにも一度お逢いしたかったのです、——家庭教師を探して居るという話を人伝ひとづてに聞いて、あらゆる運動をして、到頭此家に入り込んだのはその為で御座います
葬送行進曲 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
知らずらず、根掘り葉掘り聞くようになってみると、この美少年の知識は人伝ひとづてですから、お角さんの根掘り葉掘りに対して、つまり味鋺の子鉄なるものの生立ちから
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
人伝ひとづてに聞いてみますと、なるほどと思われない事情を含んでいないという限りもございませぬな、あれは一種の人身御供ひとみごくうなのですな、当人から言えば、ばかばかしい人違いの罪科で
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)