京橋きょうばし)” の例文
むすこのSちゃんに連れられては京橋きょうばし近い東裏通りの寄席よせへ行った。暑いころの昼席だと聴衆はほんの四五人ぐらいのこともあった。
銀座アルプス (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「なる程、備前岡山は中国での京の都。名もそのままの東山ひがしやまあり。この朝日川あさひがわ恰度ちょうど加茂川かもがわ京橋きょうばし四条しじょう大橋おおはしという見立じゃな」
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
光が新橋のほうに、ポツッと出たかとおもうと、銀座の電車通りを、矢のようにサーッと走って、たちまち京橋きょうばしのほうへ通りすぎてしまいます。
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私は京橋きょうばしへんまで車を引き返させて、そこの町にある銀行の支店で、次郎と三郎との二人ふたりのために五千円ずつの金を預けた。兄は兄、弟は弟の名前で。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
京橋きょうばし博公はくこう書院の発行で、武鑑でおなじみの須原屋茂兵衛や出雲寺万治郎が販売書林として名をつらねている『改正官員録 甲』という一冊もここにある。
武鑑譜 (新字新仮名) / 服部之総(著)
深川ふかがわ、浅草、日本橋にほんばし京橋きょうばしの全部と、麹町こうじまち、神田、下谷したやのほとんど全部、本郷ほんごう小石川こいしかわ赤坂あかさかしばの一部分(つまり東京の商工業区域のほとんどすっかり)
大震火災記 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
それから十年っていたある年の大晦日おおみそかの晩で、長い学校生活を終わった伊東の数人の仲間が京橋きょうばしのビヤホールで何軒目かの梯子酒はしござけをやっているときだった。
暴風雨に終わった一日 (新字新仮名) / 松本泰(著)
つやはあれから看護婦を志願して京橋きょうばしのほうのある病院にいるという事が知れたので、やむを得ず倉地の下宿から年を取った女中を一人頼んでいてもらう事にした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼等はまず京橋きょうばし界隈かいわい旅籠はたごに宿を定めると、翌日からすぐに例のごとく、敵の所在を窺い始めた。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
遠く神田京橋きょうばし、日本橋へ出なくても、ここへさえおりてくればおよそないものはない。昔から、ここらの寺と武家屋敷に囲まれて、切り離されたように独自の発達を遂げてきた一劃いつかくだ。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
足の向き次第あちらこちらと歩き廻って、大分つかれた時分、京橋きょうばし河岸通かしどおりが向うの方に見渡される裏通り。両側ともカッフェーばかり並んでいる中に、やっと募集の貼出しを見つけた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すべて幕間まくあいの遊歩に出ている彼らの群れは、東京の大通りであるべき京橋きょうばし区新富町の一部を自分たちの領分と心得ているらしく、れ合い摺れちがって往来のまん中を悠々と散歩しているが
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ところが、御奉行さま、なかなかしっかりした小僧で、わけのない金はなかなか取ろうと致しませんので、手こずりました。そのうち、母親が死んだとかで、京橋きょうばしの方の店に奉公したようでございます」
奉行と人相学 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それから銀座ぎんざ通りを京橋きょうばしから新橋しんばしまで、三度ほど、行ったり来たりした。そこを通っている人たちも、まるで言葉の通じない異国人のように見えた。
女妖:01 前篇 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
京橋きょうばしぎわのあるビルディングの屋上で、品川沖しながわおきから運ばれて来るさわやかな涼風の流れに噞喁けんぐしながら眼下に見通される銀座通ぎんざどおりのはなやかな照明をながめた。
試験管 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
僕等はちょうど京橋きょうばし擬宝珠ぎぼしの前にたたずんでいた。人気ひとけのない夜更よふけの大根河岸だいこんがしには雪のつもった枯れ柳が一株、黒ぐろとよどんだ掘割りの水へ枝を垂らしているばかりだった。
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
第二は隅田川中川なかがわ六郷川ろくごうがわの如き天然の河流、第三は小石川の江戸川、神田の神田川、王子の音無川おとなしがわの如き細流さいりゅう、第四は本所深川日本橋京橋きょうばし下谷したや浅草あさくさ等市中繁華の町に通ずる純然たる運河
京橋きょうばしぎわの読売新聞社で第一回のヒューザン会展覧会が開かれたとき、自分が一つかなり気に入った絵があって、それを奮発して買おうかと思うという話をしたら
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
松屋呉服店から二、三軒京橋きょうばしの方へ寄ったところに、表附おもてつき四間間口しけんまぐちの中央に弧形ゆみなりの広い出入口を設け、その周囲にDONJUANという西洋文字を裸体の女が相寄って捧げている漆喰細工しっくいざいく
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)