不幸ふしあわせ)” の例文
それも悲しい晩方の空の色に、何となく一家の不幸ふしあわせを語っているようだ。囲炉裏の火は全く消えて、鉄瓶の湯も水に返ったらしい。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
混成酒ばかり飲みます、この不愉快な東京にいなければならぬ不幸ふしあわせな運命のおたがいに取りては、ホールほどうれしい所はないのである。
号外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「いいわ。何か事が起ると、人の心もわかるものね。私の不幸ふしあわせは、あなたがほんとうにいい方だってことを教えてくれたのね。」
いっそこのままなおらずに——すぐそのあとで臥病わずらいましたのですよ——と思ったのですが、しあわせ不幸ふしあわせか病気はだんだんよくなりましてね。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
だが、清子さんとの結婚が風がわりであるばかりか、その子になっている民雄も、また別の腹に生れている不幸ふしあわせな子だ。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
可哀かわいそうだな、お前は不幸ふしあわせに生れて来て、何にも世の中の事というものが分らないんだから、私は何にもとがめやしない。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人の一生を量ってみて、幸福しあわせが多いか不幸ふしあわせが多いかと言えば、正直のところ、普通の意味でいう不幸の方が多いと言う人が沢山あるに違いありません。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
出る時、女が送って出て、「ぜひ近いうちにね、きっとですよ」と私語ささやくように言った。昨夜、床の中で聞いた不幸ふしあわせな女の話が流るるように胸にみなぎった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「そうだ、そうしてこの箱をひらくと、お前の本当の素性もわかる。もっともそいつはかえってお前を不幸ふしあわせにするかもしれねえがな。……だがそれも仕方がねえ」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
不幸ふしあわせな事には、わたくしども二人がこうした隠れた恋に酔いまして、時期を待っています間に、ドーブレクの思いをいよいよつのらせました、で、全く話が決った時の
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
こればかりでも、女は死にます。奥様の不幸ふしあわせな。歓楽たのしみにおいは、もう嗅いで御覧なさりたくも無いのでした。奥様はくたぶれて、乾いた草のようにしおれて了いました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
見ている。まかりまちがえば、こののちどんな不幸ふしあわせが起って来るかもしれん、用心用心。
お浪の家は村で指折ゆびおり財産しんだいよしであるが、不幸ふしあわせ家族ひとが少くって今ではお浪とその母とばかりになっているので、召使めしつかいも居ればやとい男女おとこおんな出入ではいりするから朝夕などはにぎやかであるが
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「でも、でも、どうせあんたが不幸ふしあわせになりそうなんだもん」
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
房子は、自分自身を不幸ふしあわせであるとは思えなかった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
辛い不幸ふしあわせなお母あはわたしひとりでない
母の手紙 (新字新仮名) / 中野鈴子(著)
要するに僕は絶えず人生の問題に苦しんでいながらまた自己将来の大望たいもうに圧せられて自分で苦しんでいる不幸ふしあわせな男である。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
令嬢は不幸ふしあわせな人で夫が亡くなったので一人の子供を連れて、父親である男爵の邸へ来ているのである。
あの昨夜ゆうべいやな夢、——どうして私はこんな不幸ふしあわせからだに生れて来たんでしょう。若しかすると、私は近い内に死ぬかも……もう御目にかかれないかも……知れません
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私みたいに不幸ふしあわせなものはないぞね、わらの上から他人の手にかかって、それでもう八歳やッつというのに、村の地主へ守児もりッこの奉公や。柿の樹の下や、うまやの蔭で、日に何度泣いたやら。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「私は不幸な男だ。あなたも不幸ふしあわせだ。その上、貧乏はする。さぞ詰らないだろう。」
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「あなた——あなた、あの、ほんとにお不幸ふしあわせなの?」
運命です、運命です、う御座います、貴様にお話がないなら僕が話します。僕が話すから聞いて下さい、せめてきいて下さい、僕の不幸ふしあわせな運命を!
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
不幸ふしあわせだ、不幸だと言いながら気の長いお倉の様子は、余計にお種をセカセカさせた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あぶぜに下滓かすを吸って生きている、低級無智な者の中にはさまれて暮していなければならなかった母君の、ジリジリした気持ち——(気勝者きしょうもの)といわれる不幸ふしあわせな気質は、一家三人の共通点であった。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)