下屋敷しもやしき)” の例文
さ「はい、業平橋と云う所は妙見様みょうけんさまく時通りましたが、あゝ云う処へお住いなすっては長生ながいきをいたしますよ、彼処あすこがお下屋敷しもやしきで」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しのぶおか」は上野谷中の高台である。「太郎稲荷」はむかし柳河やながわ藩主立花氏の下屋敷しもやしきにあって、文化のころから流行はやりはじめた。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
浅草橋御門からこっちでは、瓦町と茅町二丁目の表通りから大川端まで九割がた町家が取払いになり、松平まつだいらなにがしの下屋敷しもやしき書替役所かきかえやくしょが建つことにきまった。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
むかし有馬侯の下屋敷しもやしきが品川にあつた。海に臨んだ結構な普請で、欄干なども朱塗の気取つたものであつた。
中腹の小高いところに、ちょっと平らな場所があって、其処には下屋敷しもやしきがあったということになっていた。
簪を挿した蛇 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
かつて、安治川の下屋敷しもやしきで、月山流がっさんりゅう薙刀なぎなたをつけ、したたかに弦之丞のために投げつけられたことは、今も三位卿の記憶に残っている筈だが、それはいわない。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この正月の三日に黒田豊前守くろだぶぜんのかみ下屋敷しもやしきの金蔵を破るつもりで、お廃止になっている青山上水の大伏樋おおふせどへ麻布六本木あたりから入りこみ、地面の下を通って芝新堀まで行き
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「でも、板橋の加賀樣お下屋敷しもやしき隣の御藥園の娘、お玉さんばかりは別ですよ、江戸中には隨分綺麗な娘もあるが、あんな後光ごくわうの射すやうなのはありやしません、大したものですぜ」
なにこれは佐竹さたけ下屋敷しもやしきで、だれでも通れるんだからかまわないと主張するので、二人ともその気になって門をくぐって、やぶの下を通って古い池のそばまで来ると、番人が出てきて
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ある大名の下屋敷しもやしきの池であったのを埋めたのでしょう、まわりは築山つきやまらしいのがいくつか凸起とっきしているので、雁にはよき隠れ場であるので、そのころ毎晩のように一群れの雁がおりたものです。
あの時分 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
のがれさせたく思ひ此上は家老方へ御なげき申より外なしと豫々かね/″\心掛居ける中或日あるひ本多家の長臣ちやうしん都築外記つゞきげき中村主計かずへ用人笠原かさはら常右衞門の三人が相良さがら用達ようたし町人織田おだ七兵衞が下淀川しもよどがは村の下屋敷しもやしきへ參られ終日しゆうじつ饗應きやうおうになる由を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ここは、蜷川家にながわけ下屋敷しもやしきであった。
私の歩んだ道 (新字新仮名) / 蜷川新(著)
中「誠に暫く、御壮健のことは下屋敷しもやしきおいて聞いて居りましたが、お尋ね申すはかみはゞかりがありますからお尋ね申しません、いやお懐かしゅうございました」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いうな、最前の密談を聞く者あって、汝が甲賀世阿弥よあみの縁故の者ということは明白なのだ。言い訳があるならお下屋敷しもやしきへ参った上に、何なりと申し述べろ!」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お問合せの、阿波守様お国帰りは、九月上旬という噂、お下屋敷しもやしきもお引上げの御用に取り混んでおります。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
窮屈でいやだと思いましたが、致し方がありませんから、江戸谷中やなか三崎さんさき下屋敷しもやしきへ引移ります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
親分の銀五郎は、今日も蜂須賀の蔵屋敷くらやしき下屋敷しもやしきの方へお百度詣ひゃくどまいりだ。例の、阿波入りのため、便乗する関船手形せきぶねてがた入国御免切手にゅうごくごめんきって、二つを手に入れなければならないので。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山之助お繼は富川町へ駈けて参りますると、其の頃は彼処あすこに土屋様の下屋敷しもやしきがあり、此方こちらにはまばらに人家が有りは有りまするが、只今とは違って至って人家の少ない時分でございます。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「勘のにぶい女だな、阿州屋敷というのは蜂須賀家の下屋敷しもやしき、そこのお長屋にいるというのよ」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えゝ此品これは(と盆へ載せた品を前へ出し)なんぞと存じましたが、御案内の通りで、下屋敷しもやしきから是までまいる間には何か調とゝのえます処もなく、殊に番退ばんひけからを見て抜けて参りましたことで
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お茶屋でもなし、寺でもなし、下屋敷しもやしきという造りでもない。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)