下宿げしゅく)” の例文
そして五か月の恐ろしい試練の後に、両親の立ち会わない小さな結婚の式が、秋のある午後、木部の下宿げしゅく一間ひとまで執り行なわれた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
下宿げしゅく主人しゅじんにきいてみても、前の家をたれがりているのか知りませんでした。なにしろ、にんげんの姿すがたをみたことがないというのです。
下宿げしゅくには書物しょもつはただ一さつ『千八百八十一年度ねんどヴィンナ大学病院だいがくびょういん最近さいきん処方しょほう』とだいするもので、かれ患者かんじゃところときにはかならずそれをたずさえる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あるかれは、わか時分じぶん下宿げしゅくしていたことのあるところとおりました。はしたもとにあった食堂しょくどうは、もうそこになかった。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
ぼくは下宿げしゅくにかえると、さっそくくすり調合ちょうごうにかかったんだ。そこへ前からぼくのことをうさんくさい目でみていた下宿げしゅくのおやじが、文句もんくを言いにきたんだ。
「ええ、ただそりゃボエエムなの。下宿げしゅくも妙なところにいるのよ。羅紗屋らしゃや倉庫そうこの二階を借りているの。」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
下宿げしゅくをしてはとすすめられたのを、母子おやこいっしょにくらせるのをただ一つのたのしみにして、市の女学校の師範しはん科の二年をはなれてくらしていた母親のことを思い
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
さりとてまったく余の奴隷どれいにならなかったのは、翌日相当の礼を述べ下宿げしゅくを代えたからである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ぼくは、そこまで見とどけると、そっと玄関げんかんから、まちへしのびでていったよ。いやな下宿げしゅくにおさらばしてね
この人の下宿げしゅくしている高いたてもののつづきのせまい通りは、おまけに朝から晩まで、日がかんかんてりつけるようなぐあいにできていて、これはまったくたまらないことでした。
彼は僕より躯幹くかん長大にして、活発かっぱつにかつ短気の男であったが、この時ばかりは何も手向てむかいだもせず、なぐられたままにその夜を過ごし、翌日は丁寧に礼を述べ他の下宿げしゅくに移ったことがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
さわぎはだんだん大きくなって、下宿げしゅく人間にんげんはひとりのこらず、そのうえ出入でいりの商人しょうにんたちまでがぼくの部屋へやにはいりこんで、実験じっけん機械きかい薬品やくひんをいじりはじめたんだ
下宿げしゅくから通学していたとき、友人ぼうが九州の親もとより来る学資金がおくれたために寄宿料、食料、月謝の支払いにとどこおりが起こり大いに当惑とうわくせるを見、僕は彼を自分の下宿につれて来たことがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)