上臈じょうろう)” の例文
この画は平家の若い美くしい上臈じょうろうだんうらからのがれて、岸へ上ったばかりの一糸をも掛けない裸体姿で源氏の若武者と向い合ってる処で
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
五百は姉小路あねこうじという奥女中の部屋子へやこであったという。姉小路というからには、上臈じょうろうであっただろう。しからば長局ながつぼねの南一のかわに、五百はいたはずである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あの男が暗い夜に、小町の水の近所を通ると、ここらには珍しい美しい上臈じょうろうが闇のなかを一人でたどってゆく。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「やはり土人の悲しさには、美しいと云う事を知らないのですね。そうするとこの島の土人たちは、都の上臈じょうろうを見せてやっても、皆みにくいと笑いますかしら?」
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「弥市、このお方を下へおつれ申せ」と、どなたかはぞんじませぬけれども、そう仰っしゃっていきなりわたくしの肩の上へ上臈じょうろうさまをおのせになりました。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
京師けいしの、はなかざしてすご上臈じょうろうたちはいざらず、天下てんか大将軍だいしょうぐん鎮座ちんざする江戸えど八百八ちょうなら、うえ大名だいみょう姫君ひめぎみから、した歌舞うたまい菩薩ぼさつにたとえられる、よろず吉原よしわら千の遊女ゆうじょをすぐっても
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
わたくしは思わず歌舞伎芝居の上臈じょうろうが下臈に向って言うように「座が高い、退がりや」と言うか、でなければ、わたくしの方からさっさと座を立って、永久にこの寮へは帰って来ませず
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
五六三十日の期が満つるまでは必ず待つ。時には我意中の美人と共に待つ事もある。通り掛りの上臈じょうろうは吾をまもる侍の鎧のそでに隠れて関を抜ける。守護の侍は必ず路を扼する武士と槍を交える。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひでりがすれば格別、主ある女房にいい寄って、危い思いをするよりも宮川町の唄女うたいめ、室町あたりの若後家、祇園あたりの花車かしゃ、四条五条の町娘、役者の相手になる上臈じょうろうたちは、星の数ほどあるわ。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そうして、ひとりのあでやかな上臈じょうろうの立ち姿がまぼろしのように浮き出て来た。柳の五つぎぬにくれないの袴をはいて、唐衣からごろもをかさねた彼女の姿は、見おぼえのある玉藻であった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あの男は琵琶びわでもき鳴らしたり、桜の花でも眺めたり、上臈じょうろう恋歌れんかでもつけていれば、それが極楽ごくらくじゃと思うている。じゃからおれに会いさえすれば、謀叛人の父ばかり怨んでいた。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もし果してそうならば、猪早太いのはやたほどにもない雑兵ぞうひょう葉武者はむしゃのわれわれ風情が、遠慮なしに頭からざぶざぶ浴びるなどは、遠つ昔の上臈じょうろうの手前、いささか恐れ多き次第だとも思った。
秋の修善寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たとえば当世の上臈じょうろうの顔は、唐朝とうちょう御仏みほとけ活写いきうつしじゃ。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ととさまに習うたけれど、わたしも不器用な生まれで、ようは詠まれぬ。はて、詠まれいでも大事ない。歌など詠んで面白そうに暮らすのは、上臈じょうろう公家くげ殿上人てんじょうびとのすることじゃ」
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もし果たしてそうであるならば、猪早太いのはやたほどにもない雑兵葉武者ぞうひょうはむしゃのわれわれ風情が、遠慮なしに頭からざぶざぶ浴びるなどは、遠つ昔の上臈じょうろうの手前、いささか恐れ多き次第だとも思った。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)