七子ななこ)” の例文
縮緬ちりめん七子ななこ、市楽、薩摩、御召、大島、結城位の区別で、その上に、何々御召と名のつき出したのは、ここ二十年位の事で、私は、父が
死までを語る (新字新仮名) / 直木三十五(著)
七子ななこの羽織に仙台平のリウとした袴、太い丸打の真白ましろな紐を胸高に結んださまは、何処かの壮士芝居で見た悪党弁護士を思出させた。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
三重吉はどこで買ったか、七子ななこおれの紙入を懐中していて、人の金でも自分の金でも悉皆しっかいこの紙入の中に入れる癖がある。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
承塵なげし造りの塗ガマチに赤銅七子ななこの釘隠しを打ちつけた、五十畳のぜいたくな大広間の正面に金屏風を引きまわし、阿蘭陀おらんだ渡りの大毛氈を敷きつめ
顎十郎捕物帳:20 金鳳釵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
七子ななこのかなり大型の両ぶたの金時計を持って来て私に渡し、「麻田さん(当時の社長)にもそうたびたびはいいにくいから、これで一時都合して下さい」
文壇昔ばなし (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
金物の彫りの方では、唐草からくさ地彫じぼり、唐草彫り、つる彫り、コックイ(極印ごくいん)蔓などで地はいずれも七子ななこです。
時雄は茶色の中折帽、七子ななこ三紋みつもんの羽織という扮装いでたちで、窓際に立尽していた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「ここです」と藤尾は、軽く諸膝もろひざななめに立てて、青畳の上に、八反はったん座布団ざぶとんをさらりとべらせる。富貴ふうきの色は蜷局とぐろを三重に巻いた鎖の中に、うずたか七子ななこふたを盛り上げている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「だいぶ早いな。早い方がいいだろう。いくら早くっても構わない。用意はちゃんと出来てるんだから」と懐中から七子ななこ三折みつおれの紙入を出して、中から一束の紙幣しへいをつかみ出す。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
行列の中にはあや絹帽シルクハット阿弥陀あみだかぶって、耳の御蔭で目隠しの難をめているのもある。仙台平せんだいひらを窮屈そうに穿いて七子ななこの紋付を人の着物のようにいじろじろながめているのもある。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こまやかに刻んだ七子ななこ無惨むざんつぶれてしまった。鎖だけはたしかである。ぐるぐると両蓋りょうぶたふちを巻いて、黄金こがねの光を五分ごぶごとに曲折する真中に、柘榴珠ざくろだまが、へしゃげた蓋のまなこのごとく乗っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小野さんは再び布団の下をのぞいて見た。松葉形まつばがたつなぎ合せた鎖の折れ曲って、表に向いている方が、細く光線を射返す奥に、盛り上がる七子ななこふちかすかに浮いている。たしかに時計に違ない。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)