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くわいちゆう
神事をはれば人々
離散して普光寺に入り、
初棄置たる
衣類懐中物を
視るに
鼻帋一枚だに
失る事なし、
掠れば
即座に
神罰あるゆゑなり。
そのまゝ
樹下に立せ玉ふ
石地蔵𦬇の
前に
並びたちながら、
懐中より
鏡を
出して
鉛粉のところはげたるをつくろひ、
唇紅などさして
粧をなす、これらの
粧具をかりに
石仏の
頭に
置く。
「
私が
宜道です」と
若い
僧は
答へた。
宗助は
少し
驚ろいたが、
又嬉しくもあつた。すぐ
懷中から
例の
紹介状を
出して
渡すと、
宜道は
立ちながら
封を
切つて、
其場で
讀み
下した。
婢あり別れを惜みて
伏水に至る。兵士
環つて之を
視る。南洲輿中より之を招き、其背を
拊つて曰ふ、
好在なれと、金を
懷中より出して之に與へ、
旁ら人なき若し。兵士
太だ其の情を
匿さざるに服す。