格子かうし)” の例文
が和泉屋の戸締りは鐵の藏のやうに嚴重で、土臺下を掘つて入つた形跡がなく、格子かうし一本々々にも、少しのゆるみもありません。
宗助そうすけ浴衣ゆかた後影うしろかげが、裏口うらぐちところへてなくなるまで其處そこつてゐた。それから格子かうしけた。玄關げんくわんへは安井やすゐ自身じしんあらはれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
致して居る樣子を格子かうしそとにて承まはりしが黄昏頃たそがれごろゆゑそつのぞきし所百兩包を取出し御門跡へ納める金なりと云ひ又箪笥たんすの引出へいれたる處を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その三畳の格子かうしの前のところで、軽いなまめかしい駒下駄の音が来て留つた。かれは幼心をさなごころにもそれが誰だかちやんと知つてゐた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
番頭のやつはてれ隠しに、若え者を叱りながら、そこそこ帳場の格子かうしの中へ這入ると、仔細しさいらしくくはふでで算盤をぱちぱちやり出しやがつた。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さあなんとで御座ござんす、とたもとらへてまくしかくるいきほひ、さこそはあたがたうもあるべきを、ものいはず格子かうしのかげに小隱こかくれて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
美女たをやめまたかぞへて、鼓草たんぽゝこまつて、格子かうしなかへ、……すみれはないろけて、しづか置替おきかへながら、莞爾につこ微笑ほゝゑむ。……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それでも六でふと三畳と二室ふたまあツて、格子かうしを啓けると直ぐに六畳になツてゐた。此處でお房の母は、近所の小娘や若い者を集めてお師匠ししやうさんを爲てゐる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
と、思返おもひかへしたものゝ、猶且やはり失望しつばうかれこゝろ愈〻いよ/\つのつて、かれおもはずりやう格子かうしとらへ、力儘ちからまかせに搖動ゆすぶつたが、堅固けんご格子かうしはミチリとのおとぬ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
なにがつて、こんなところになにわるいことでもした人間にんげんのやうに、だれをみても、かうしててつ格子かうしか、そうでなければ金網かなあみ木柵もくさく石室いしむろ板圍いたがこいなんどのなか閉込とぢこめられてさ
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
いんきんだむしの附着くつゝいてる箱は川原崎かはらさきごんらういたてえ……えゝすべつてころんだので忘れちまつた、醋吸すすひの三せい格子かうし障子しやうじに……すだれアハヽヽヽ、おいうした、しつかりしねえ。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
教室と寄宿舍のある新らしい方は、壁に仕切があり、格子かうしのある窓が光つてゐて、それはこの建物たてものに、教會風の樣子を想はせてゐた。入口の上にある石の額面に、次のやうな彫刻があつた。
格子戸かうしど格子かうしを一本々々一生懸命にみがいてるのもある。長吉ちやうきち人目ひとめの多いのに気後きおくれしたのみでなく、さて路地内ろぢうち進入すゝみいつたにしたところで、自分はどうするのかと初めて反省の地位に返つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
小川方をがはかた」とあつた、よろしいこれだと、躊躇ためらうことなく格子かうしけて
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
文章の続柄つゞきがらさうよりほかには取れぬ、で、吉原の景気を叙するあたりにも大分珍聞もあるが、それは省略して、此通信員つれの独逸人とトある格子かうし先に立つた……とは書いてないが、立つたに違ひない。
露都雑記 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
くわんわづかひとはうむられた。それでも白提灯しろぢやうちん二張ふたはりかざされた。だけ格子かうしんでいゝ加減かげんおほきさにるとぐるりと四はうを一つにまとめてくゝつた花籠はなかごも二つかざされた。れも青竹あをだけけられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
格子かうしは、ミシリともしなかつた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
たまたまに、あかりさす格子かうしはあれど
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「内儀の方は、小僧が格子かうしから投り込んで行つたが、せがれの手紙は宵の口に、お勝手の入口へ、石つころをせてあつた相だ」
うち門口かどぐちまでると、いへなかはひつそりして、だれもゐないやうであつた。格子かうしけて、くついで、玄關げんくわんがつても、るものはなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あかりのついた、お附合つきあひとなりまどから、いはさんの安否あんぴかうとしでもしたのであらう。格子かうしをあけたをんながあつたが、なんにも女房にようばうにはきこえない。……
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
むねはわくわくと上氣じようきして、うでもけられぬもんきわにさりとも見過みすごしがたき難義なんぎをさま/″\の思案しあんつくして、格子かうしあいだよりれをものいはずいだせば
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
が、K先生はどう思つたか、武さんを玄関の中へ入れずに格子かうし戸越しにかう言ふのだつた。
素描三題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なんだらうと思つてすぐ飛出とびだして格子かうしを明けて見ますると、両側りやうがはとも黒木綿くろもめん金巾かなきん二巾位ふたはゞぐらゐもありませうか幕張まくはりがいたしてございまして、真黒まつくろまる芝居しばゐ怪談くわいだんのやうでございます。
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
見物けんぶつあれと無理にすゝむる故毎度のすゝ然々さう/\ことわるも氣の毒と思ひ或日あるひ夕暮ゆふぐれより兩人同道にて二丁町へ到り其處此處そこここと見物して行歩あるく中常盤屋と書し暖簾のれんの下りし格子かうしの中におときといふ女の居りしが文藏不※ふと恍惚みとれさまたゝずみける佐五郎はやくも見付みつけなにか文藏に私語さゝやき其家へ上りしがやみつきにて文藏は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
初めは使ひ屋に頼んだけれど、さうすると、反つて足が付きさうだから二度目から自分で格子かうしから抛り込んだんです。
と、はぎれのいゝこゑけて、水上みなかみさんが、格子かうしつた。わたしは、家内かない駈出かけだして、ともにかほにぎつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それは京都きやうと共通きようつうくら陰氣いんきつくりのうへに、はしら格子かうし黒赤くろあかつて、わざと古臭ふるくさせたせま貸家かしやであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
小兒ちごうつくしきさまるべきを、格子かうしそとよりうかゞふに燈火ともしびぼんやりとして障子しようじうるるかげもし、お美尾みを美尾みをよびながらるに、こたへはとなりかたきこえて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其大仏餅屋そのだいぶつもちや一軒いつけんおいて隣家となりが、おもてこまかつが面取めんどりの出格子でがうしになつてりまして六尺いつけんとなりのはうあら格子かうし其又側そのまたわき九尺くしやくばかりチヨイと板塀いたべいになつてる、無職業家しもたやでございまする。
それにもう、一つ大事なことはその二、三日前に猪之松が三崎町の茶店へ行つて、お葉さんが夜中にそつと出られないやうに、格子かうしに釘を打つてしまつた。
五月雨さみだれ陰氣いんき一夜あるよさかうへから飛蒐とびかゝるやうなけたゝましい跫音あしおとがして、格子かうしをがらりと突開つきあけたとおもふと、神樂坂下かぐらざかした新宅しんたく二階にかいへ、いきなり飛上とびあがつて
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
頭腦あたまなか此樣こんことにこしらへて一けんごとの格子かうし烟草たばこ無理むりどり鼻紙はながみ無心むしんちつたれつれを一ほまれ心得こゝろゑれば、堅氣かたぎいゑ相續息子そうぞくむすこ地廻ぢまわりと改名かいめいして
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
雨戸あまどを引いて外の格子かうしをがらがらツと明けまして燈明あかり差出さしだして見ると、見る影もない汚穢きたな乞食こじき老爺おやぢが、ひざしたからダラ/″\血の出る所をおさへてると、わづ五歳いつゝ六歳むツつぐらゐの乞食こじき
「オヤ、誰か來た樣子ぢやないか、路地の中へ驅け込んで格子かうしにつかまつて、フウフウ言つてゐるが——」
出口でぐちやなぎ振向ふりむいてると、もなく、くるまは、御神燈ごしんとうのきけた、格子かうしづくりの家居いへゐならんだなかを、常磐樹ときはぎかげいて、さつべにながしたやうな式臺しきだいいた。明山閣めいざんかくである。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
くるまもなし、女中ぢよちうれずか、やれ/\まはやなか這入はいれ、さあ這入はいれ、うも不意ふいおどろかされたやうでまご/\するわな、格子かうしめずともしがめる、かくおく
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「靜かに、お神さん、——隣り部屋で聽いて居た源三郎は外へ出て行つた樣子だ。格子かうしを開けつ放したまゝ、可哀想に、——この俺にはどうする事も出來ない」
八幡樣はちまんさまうらわたようとおもつて、見當けんたう取違とりちがへて、あちらこちらうらとほるうちに、ざんざりにつてた、ところがね、格子かうしさきへつて、雨宿あまやどりをして、出窓でまどから
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
もどらうか、もどらうか、あのおにのやうな我良人わがつまのもとにもどらうか、おにの、おに良人つまのもとへ、ゑゝやとをふるはす途端とたん、よろ/\としておもはず格子かうしにがたりとおとさすれば
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
三十五の出戻り、存分にみにくい中年女は、この若い二人のやるない戀路を、格子かうし獅噛しがみついて、大向うから濡れ場を見るやうな熱心さで眺めてゐたのでした。
これが、もつとおくめてつてあれば、絹一重きぬひとへうちは、すぐに、御廚子みづし神棚かみだなふのでせうから、ちかつて、わたしは、のぞくのではなかつたのです。が、だううちの、むし格子かうしつたはうかゝつてました。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「それどころぢやない、娘は赤いお神籤みくじを結ぶ時、前にあの格子かうしに結んであつた、青いしるしのあるお神籤を解いて持つて行つたよ。——それに氣が付かなかつたのか」
普請小屋ふしんごやと、花崗石みかげいし門柱もんばしらならべてとびら左右さいうひらいてる、もんうち横手よこて格子かうしまへに、萌黄もえぎつたなかみなみしろいたポンプがすわつて、そのふち釣棹つりざをふごとがぶらりとかゝつてる、まことにものしづかな
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
八五郎は格子かうしをガタピシさせると、挨拶は拔きの、あごを先に立てて、斯う飛び込んで來るのでした。
おなじくふたつづゝ六行ろくぎやうに……むらさき格子かうしならべた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
遲い月が一杯に射した窓格子に、生首が一つ、もとゞり格子かうしからんだまゝ、ブラ下げてあつたのです。
つる姿すがたくもにらんで、鼓草たんぽゝ格子かうしうごく。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
他の泥棒ならどんなにうまくやつても忍び込んだ場所が判るものだ、雨戸をコジあけるとか、格子かうしはづすとか、土臺の下を掘るとか、窓わくにあとを殘すとか——熊五郎に限つてそれが一つも無い
格子かうしの具合を調べてくれとか、いやもう、大變な持てやうでしたよ