麦畠むぎばたけ)” の例文
旧字:麥畠
「不景気なことを言ってらあ。麦畠むぎばたけの中へひっくりかえって、青天井で寝た処で、天窓あたまが一つ重くなるようなんじゃあないよ、鍛えてあらあな。」と昂然こうぜんたり。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その下が麦畠むぎばたけで、麦畠の向うがまた岡続きに高く蜿蜒うねうねしているので、北側のながめはことに晴々はればれしかった。須永すながはこの空地のはしに立って広い眼界をぼんやり見渡していた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひる近く、ようやく、はるか前方の真青まっさお麦畠むぎばたけの中の道に一団の人影が見えた。その中で特に際立って丈の高い孔子の姿を認め得た時、子路は突然とつぜん、何か胸をめ付けられるような苦しさを感じた。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
浅々と青く萌初もえそめた麦畠むぎばたけの側を通りますと、丁度その畠の土と同じ顔色の農夫ひゃくしょうくわを休めて、私共を仰山らしくながめるのでした。北国街道は小諸へ入る広い一筋道。其処そこまで来れば楽なものです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
がけの上の麦畠むぎばたけ
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
はしへかけた手を手帳に控えて、麦畠むぎばたけ真正面まっしょうめん。話をわきへずらそうと、青天白日せいてんはくじつに身構えつつ
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
久しく見ずにいた郊外の景色けしきも忘れ物を思い出したようにうれしかった。眼に入るものは青い麦畠むぎばたけと青い大根畠と常磐木ときわぎの中に赤や黄や褐色を雑多に交ぜた森の色であった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
またこの橿原かしわばらというんですか、山のすそがすくすく出張でばって、大きな怪物ばけものの土地の神が海の方へ向って、天地に開いた口の、奥歯へ苗代田なわしろだ麦畠むぎばたけなどを、引銜ひっくわえた形に見えます。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この路をあとへ取って返して、今へびったという、その二階屋にかいやかどを曲ると、左の方にの高い麦畠むぎばたけが、なぞえに低くなって、一面にさっと拡がる、浅緑あさみどりうつくし白波しらなみうっすりとなびなぎさのあたり
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前は一面の麦畠むぎばたけ
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)