駆逐くちく)” の例文
人間の社会もこのくらい有機的になって、全系統の生理に有害なものを自働的に駆逐くちくするような機巧きこうが具わっているといいと思う。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして煤煙ばいえん防止に大わらわである。まことに結構な話で、札幌から煤煙が駆逐くちくされたら、冬の札幌の生活は、よほど快適になることであろう。
黒い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
その中で、どうしたらこの難局を逃れることができるかという、自己防衛の線がだんだん太く鮮明せんめいになり、ほかの一切の想念を駆逐くちくして行った。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
プロレタリア駆逐くちくしたプチ・ブルジョワ達によって、かくも盛大に開演された未来派のオペラ、金属的なめろでい、青磁色の空には女優募集の広告と
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
これは堅田かただから石山あたりに、いまなお蠢動しゅんどうしている僧門内の、反信長勢力を駆逐くちくし、途中の諸処に構築中の木戸防寨ぼうさいなどを撃砕げきさいしてゆくものだった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
支那人は、抑圧よくあつせられ、駆逐くちくせられてなお、余喘よぜんを保っている資本主義的分子や、富農や意識の高まらない女たちをめがけて、贅沢品を持ちこんでくるのだ。
国境 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
貴方は、あの愛蘭土アイルランドの傑僧がデシル法——(註)に似た行列を行うと、それがドルイド呪僧を駆逐くちくして、アルマーの地が聖化されたという史実を御存じでしょうか
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
彼はく働くと私はつくづく感心した。それと同時に、彼を駆逐くちくすることは所詮しょせん駄目だめだと、私はあきらめた。わたしはこの頑強がんきょうなる敵と闘うことを中止しようと決心した。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
だが結合と秩序とは彼らから悪を駆逐くちくした。このことなくして、民衆に何の徳が保たれようや。今日ほとんど見るべき作がなくとも、罪を工人たちに帰すわけにゆかぬ。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「わが校のために不良少年を駆逐くちくしなければならん、かれは温厚なる柳をきずつけた、そうして」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
かかる文字の一つの様式としては、フェニキアに近いエジプトにすでに古くより象形文字が存していた。が、それはフェニキアの音綴文字に駆逐くちくせられて死滅してしまった。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
一年ってもKを忘れる事のできなかった私の心は常に不安でした。私はこの不安を駆逐くちくするために書物におぼれようとつとめました。私は猛烈ないきおいをもって勉強し始めたのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
貴婦人の社交もひろまり、その他女性の擡頭たいとうの機運は盛んになったとはいえ、女学生スタイルが花柳人かりゅうじん跳梁ちょうりょう駆逐くちくしたとはいえ、それは新しく起った職業婦人美とともに大正期に属して
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
するとポプラア倶楽部クラブ芝生しばふに難を避けてゐた人人もいつ何時なんどき隣の肺病患者を駆逐くちくしようと試みたり、或は又向うの奥さんの私行を吹聴ふいちやうして歩かうとするかも知れない。それは僕でも心得てゐる。
文殊堂もんじゅどうあとに立ったとき、光秀は憮然ぶぜんとしてつぶやいた。今さらのように、信長の威と、その武力による駆逐くちくの徹底に、おどろいたかのような顔いろであった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シベリアで金儲けをしようとする人間は駆逐くちくされた。それでも深沢は、どこまでもシベリアに喰いさがろうとした、黒竜江のこちら側へ渡った。火酒の密輸入をやった。
国境 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
貴婦人の社交もひろまり、女子擡頭たいとうの気運は盛んになったとはいえ、そしてまた、女学生スタイルが、追々に花柳界人の跳梁ちょうりょう駆逐くちくしたとはいえ、それは、大正の今日にかかるかけはしであって
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
荒木村重が初めて信長に随身したのは、二条のたちを攻撃して旧将軍義昭よしあき駆逐くちくしたあの時からであった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むしろ、好機くべからずとして、活溌な外交と、兵力を用いて、今川義元のあとの——今川氏真うじざねの勢力を、駿河するが遠江とおとうみの二国からまったく駆逐くちくしてしまったのである。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もし信長が中国へ軍を向けて来たら、まっ先に踏みつぶされるのはこの辺の第一線である。しかも今川、武田をすら打ち破り、京都の幕府勢力まで駆逐くちくした彼。決してあなどることはできない」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)