饑渇きかつ)” の例文
ガルールは一生懸命なだめにかかったが、饑渇きかつ自暴自棄やけくそになった九人の男は、そんな言葉を耳にもかけず、気色ばんでじりじりと詰め寄った。
ミルトンのたからかにぎんじたところ饑渇きかつなか々にしがたくカントの哲学てつがくおもひひそめたとて厳冬げんとう単衣たんいつひしのぎがたし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
三日みつかは孫娘を断念し、新宿しんじゆくをひたづねんとす。桜田さくらだより半蔵門はんざうもんに出づるに、新宿もまた焼けたりと聞き、谷中やなか檀那寺だんなでら手頼たよらばやと思ふ。饑渇きかついよいよ甚だし。
こういう雨が何度も何度も来た後でなければ、私達はたとえようの無い烈しい春の饑渇きかついやすことが出来ない。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そは人々なかりせば、我は或は饑渇きかつの爲めにくるしめられけんも計り難きが故なり。我が人々の爲めに身にふさはしきわざして、恩義にむくいんとせしことは幾度ぞ。
故にその愛は良人に非ずして、我が身にあり、我が身の饑渇きかつを恐るるにあり、浅ましいかな彼らの愛や、男子の狼藉ろうぜきいて、黙従のほかなきはかえすがえすも口惜しからずや。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
今から素手すでで世の中に飛出す以上は饑渇きかつと戦う覚悟がなけりゃならぬ、なお鴎外、露伴らに紹介せよとの事だが、自分はまだ逢った事もない、たとい自分が紹介の労を取るにしたところで
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
饑渇きかつせめや、貪婪たんらん羽蟲はむしむれもなにかあらむ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
とはに盡きぬはその饑渇きかつ
不可能 (旧字旧仮名) / エミール・ヴェルハーレン(著)
こう云う粟野さんに芸術のないのは犬に草のないのも同然であろう。しかし保吉に芸術のないのは驢馬ろばに草のないのも同然である。六十何銭かは堀川保吉に精神的饑渇きかつの苦痛を与えた。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
饑渇きかつせめや、貪婪たんらん羽虫はむしむれもなにかあらむ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
翌日も丸の内一帯より日比谷まで、孫娘を探しまはる。「人形町なり両国なりへ引つ返さうといふ気は出ませんでした」といふ。ひるごろより饑渇きかつを覚ゆること切なり。やむを得ず日比谷の池の水を飲む。