面伏おもぶせ)” の例文
同じ烏帽子、紫の紐を深く、袖を並べて面伏おもぶせそうな、多一は浅葱紗あさぎしゃ素袍すおう着て、白衣びゃくえの袖をつつましやかに、膝に両手を差置いた。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
名宣なのられし女は、消えもらでゐたりし人陰のくらきよりわづかにじり出でて、面伏おもぶせにも貫一が前に会釈しつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
勿論人の妻として才色ふたつながら非の打ちどころのない事はく承知しているが、その後清岡は月日の立つにつれて自分の品行のおさまらないところから、何となく面伏おもぶせな気がしだして
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お取にてととはれて老人一滴ひとしづくホロリとなみだこぼしながら初てあつた此方衆に話すもいと面伏おもぶせながら不※ふとした事から此樣に吾儕わしの家にて酒食しゆしよくするも何かの縁と思ふ故我身わがみはぢを包もせで話すを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私も熱心に仕事をしているのだが、どうかしてちょっと頭を上げてその人の方を見ると、その人は面伏おもぶせなような顔をしてふいと去ってしまう。こういうことが幾度となく重なっていました。
初め兩親にかたるもいとゞ面伏おもぶせと思ふばかりに言も出さず心地こゝろあししと打伏しがさうとはれてはつゝむに由なし實は今日音羽までゆきたる時に箇樣々々かやう/\かはやへ入んと七丁目の鹽煎餠屋しほせんべいやと炭團屋の裏へ這入て用を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
寢かしてやうなは今宵こよひとまらん積ならんいつまでかうしてゐたらばとてはてしなければ此方こなたよりいざなひ立ねば未通女をとめの事ゆゑ面伏おもぶせにもおもふしと一人ひとり承知しようち押入おしいれより夜具やぐ取出し其所へとこ敷延しきのべてお光に向ひ吾儕わたし御免ごめん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)