障礙しょうがい)” の例文
それだからどうぞ殿様に殉死を許して戴こうという願望がんもうは、何物の障礙しょうがいをもこうむらずにこの男の意志の全幅を領していたのである。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
第四階級の自覚の発展に対して決して障礙しょうがいにならないばかりでなく、唯一の指南車でありうると誰が言いきることができるだろう。
片信 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
さやる」は、障礙しょうがいのことで、「百日ももかしも行かぬ松浦路まつらぢ今日行きて明日は来なむを何かさやれる」(巻五・八七〇)にも用例がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼の見た偶像は真実の生の障礙しょうがいたる迷信の対象に過ぎなかった。彼が名もなき一人のさすらい人としてアテネの町を歩く。
『偶像再興』序言 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
人見廣介が菰田源三郎になりすます為には、菰田夫人の存在が最大の障礙しょうがいに相違ない、という点に気がついたのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何となればアダには徒爾とじまたは障礙しょうがいの意味があるからである。アタの地名の古いのは九州南部の吾田・阿多がある。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
いかなる障礙しょうがいにも負かされることなく、かえってその障礙を利用して自己を高めてゆくことを知っておる秀れた魂は、それが遭遇する経験が多く、強く
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
「はい、大河平一郎と申します。はじめて、お目にかかります」平一郎は答えながら何故か虚偽を自分は言っているのではないかという障礙しょうがいを内部に感じた。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
そは神の光宇宙をばその功徳に準じてつらぬき、何物もこれが障礙しょうがいとなることあたはざればなり 二二—二四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
今の人間には崇高や壮大と名づけられる種類の美は何らかの障礙しょうがいのために拒まれているのだろうか。
帝展を見ざるの記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼女の正しい考への上では、彼と別れる事も、子供と別れる事も、本当に自分の行くべき道の、障礙しょうがいとなる場合には止むを得ないと云ふ事が殆んど無条件で考へられた。
惑ひ (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
みちすがら、そうやって、影のような障礙しょうがいに出遇って、今にも娘が血に染まって、私は取って殺さりょうと、幾度いくたび思ったかわかりませんが、黄昏たそがれと思う時、その美女ヶ原というのでしょう。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
云うまでもなくその徴候は、ある種の精神障礙しょうがいには前駆となって来るものです。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
他の衆生をまず先に作仏さぶつせしめるためには自己の作仏を抑制し、遂にそのため、直接には自己の作仏の障礙しょうがいとなる如き悪といわれる行為をも、無心・善悪の彼岸において方便として敢行し
メメント モリ (新字新仮名) / 田辺元(著)
このまま登った処で空の晴れるかどうかは、近来の天気では先ず疑問である。雨の中を登るもよいがもし病気でもする者があっては、後の女子登山者に対して多少の障礙しょうがいともならぬとは云えない。
女子霧ヶ峰登山記 (新字新仮名) / 島木赤彦(著)
それを世間から遮蔽しゃへいしている障礙しょうがいのような気がしたばかりだった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
障礙しょうがいするのを、まだ不審がる気か。
この砂糖店は幸か不幸か、繁昌の最中もなかに閉じられて、陸は世間の同情にむくいることを得なかった。家族関係の上に除きがたい障礙しょうがいが生じたためである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
難点は、云うまでもなく、如何いかにして刑罰を免れるかということにあった。倫理上の障礙しょうがいすなわち良心の呵責かしゃくという様なことは、彼にはさして問題ではなかった。
心理試験 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこで、つまり僕たちふたりは障礙しょうがいを微塵も受けずにアルプス山上の美しい日の出を見たのであった。
リギ山上の一夜 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
罪業になやまされる自己を「かかるあさましき身」と観じ、その罪をにくみ、恥じ、苦しむ「心」のあるところには、もはや救いをはばむ何らの障礙しょうがいもないのである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
事実の障礙しょうがいを乗り越して或る要求を具体化しようとする。もし思想からこの特色を控除したら、おそらく思想の生命は半ば失われてしまうであろう。思想は事実を芸術化することである。
広津氏に答う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
多くの障礙しょうがいと困難に戦つた目ざましい彼女の半生が描いてあつた。
乞食の名誉 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
そして、自然の法則にそむく苦痛の中に、天主の肌と愛撫の実感を描かせるのですよ。しかしそうなると、清純な処女にありがちの潔癖——と云うだけでは許されなくなります。明白な精神障礙しょうがいです。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
然るにここに一つの障礙しょうがいがあった。それは師範学校の生徒は二十歳以上に限られているのに、保はまだ十六歳だからである。そこで保は森枳園きえんに相談した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかしもし孝が捨離し難い特殊の力を持つとすれば、それは孝が徳であるゆえではなくして愛情であるゆえでなくてはならない。この愛情は在家にとっては美しい。しかし出家にとっては障礙しょうがいである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
... ここで幾ら莫迦ばか問答を続けたところで、結局この局状シチュエーションには批評の余地はございませんでしょう」と伸子は何度もつかえながら、大きく呼吸いきを吸い込んでから、「それに、私には固有の精神障礙しょうがいがあって、 ...
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
勝三郎が歿したのちに、杵勝分派の団結を維持して行くには、一刻も早く除かなくてはならぬ障礙しょうがいがある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この時李はにわかに発した願が遽にかなったように思った。しかしそこに意外の障礙しょうがいが生じた。それは李が身を以て、ちかづこうとすれば、玄機は回避して、強いてせまれば号泣するのである。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この男は著作をするときも、子供が好きな遊びをするような心持になっている。それは苦しい処がないという意味ではない。どんな sportスポオト をしたって、障礙しょうがいしのぐことはある。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)