降頻ふりしき)” の例文
梅雨つゆ降頻ふりしきる頃には、打渡した水の満ちた田に、菅笠すげがさがいくつとなく並んで、せつせとなへを植ゑて行つてゐる百姓達の姿も見えた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
まして飛騨山中の冬の夜は、凍えるばかりに寒かった。霧に似たる細雨こさめは隙間もなく瀟々しとしと降頻ふりしきって、濡れたる手足は麻痺しびれるように感じた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その筈でございます、雪は益々降頻ふりしきり、いやが上に積りまして、足跡とても見えぬくらい、谷々は只真っ白になって少しも様子が分りませぬ。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
雨はまだ降頻ふりしきっていた。森も畑の作物も荒地の草も、ぐっと気温の下った雨に濡れて身震いしているように思われた。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
雪は風を添へて掻乱かきみだし掻乱し降頻ふりしきりつつ、はや日暮れなんとするに、楽き夜のやうやきたれるが最辱いとかたじけなき唯継の目尻なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
当夜は、北町の友達のその座敷に、五人ばかりの知己ちかづきが集って、袋廻しの運座があった。雪を当込あてこんだもよおしではなかったけれども、黄昏たそがれが白くなって、さて小留こやみもなく降頻ふりしきる。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
取り残したいもの葉に雨は終日降頻ふりしきって、八百屋やおやの店には松茸まつたけが並べられた。垣の虫の声は露に衰えて、庭のきりの葉ももろくも落ちた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
唄の声はまさしくお葉であった。重太郎は枯柳にひし取付とりついて、酔えるように耳をすましていた。雪はいよいよ降頻ふりしきって、重太郎も柳も真白まっしろになった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一月十七日なる感はいとはげしく動きて、宮は降頻ふりしきる雪に或言あることばを聴くが如くたたずめり。折から唯継は還来かへりきたりぬ。静にけたるドアの響はしたたかに物思へる宮の耳にはらざりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
爺さんの話のまま——猟夫りょうしがこの爺さんである事は言うまでもなかろうと思う。さて猟夫が、雪の降頻ふりしきる中を、朝のに森へくと、幹と根と一面の白い上に、既に縦横に靴で踏込んだあとがあった。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くて夜半やはんまで草を分けて詮議したが、安行の行方は依然不明であった。加之しかも夜の更けると共に、寒い雨が意地悪く降頻ふりしきるので、人々も寒気かんきうえとに疲れて来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
されど唯一目散にのがれんとのみにて、にはかに志すかたもあらぬに、生憎あやにく降頻ふりしきる雨をば、からくも人の軒などにしのぎつつ、足に任せて行くほどに、近頃思立ちて折節をりふし通へる碁会所の前に出でければ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)