いや)” の例文
他が為に家庭趣味を説くはいやしい、人の各自に其の家庭趣味を談じて、大いに其の趣味を味うというは、人世の最大なる楽事であるまいか。
家庭小言 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
自分は、金の多少より、勿論少ないことによって起された感ではあるが、受用は人をいやしくすると云ったゲーテの言葉を身に徹えて感じた。
そしてこんな事を思った。平生自分は瀬戸なんぞの人柄のいやしいのを見て、何事につけても、彼と我との間には大した懸隔があると思っていた。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いやしげなるびじクリイムの響のうちには嘲弄とうろうこころこもらむとてなり。なほ高諭こうゆふ(三〇・九・八附読売新聞より)
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
われは君が初戀をいやしとせざるべし。されどその敵手あひてなる女の、君の直きが如く直からざりしは、爭ふべからざる事實なるべし。否、我話の腰を折り給ふな。
これらの人をつらねて、五〇貨殖伝くわしよくでんしるし侍るを、其のいふ所いやしとて、のちの博士はかせ筆を競うてそしるは、ふかくさとらざる人のことばなり。五一つねなりはひなきは恒の心なし。
渠の形躯かたちは貴公子のごとく華車きゃしゃに、態度は森厳しんげんにして、そのうちおのずから活溌かっぱつの気を含めり。いやしげに日にくろみたるおもて熟視よくみれば、清※明眉せいろめいび相貌そうぼうひいでて尋常よのつねならず。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薄〻はく/\の酒を酌むに、いや/\ながらも杯を重ぬれば、其の中にはおのづから酔ひて之を楽むに至るといふことを云へるか、或は又虚礼謙譲のいやしきを笑へる意の諺なるべし。
東西伊呂波短歌評釈 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
今このいやしき習俗を脱して活発なる境界に入り、多くの事物に接しひろく世人に交わり、人をも知り己れをも知られ、一身に持ち前正味の働きを逞しゅうして、自分のためにし
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
然れどもおのれを恃みて、いやしき家に入りませる王子は、いのち死ぬとも棄てまつらじ
己を自らいやしく思わせ、切角お前のくれた物を、3245
したしき友人の顔にいやしき探偵たんていわらひを恐れ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
たとえばここに一軒の家あらん。楼下はいやしき一室にして、楼上には夥多あまたの美室あり。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
秩祿ちつろくを加へられる度數の多いので、心あるものは主家のため、領國のために憂へ、怯懦けふだのものは其人をおそはゞかり、いやしいもの、よこしまなものは其人にたよつて私を濟さうとするやうになつた。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
受用は人をいやしゅうする。