かすがい)” の例文
昔はよくひびの入ったレコードをにかわかすがいでつけて使ったものだが、針がかちかち打っつかるたびにひどくサウンドボックスを傷める。
巨材の木口こぐちには、かすがいを打って、かすがいには、綱がくくり付けられてある。その綱に、三十人余りの老人や女やわらべがつかまって
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
再び、かぼそい手で、重いかんぬきをゆすぶる。閂はびついたかすがいの中できしむ。それから、そいつを溝の奥まで騒々そうぞうしく押し込む。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
転がりこまないように夜ひるなしにかすがいが打ちこまれる筈だ、命のひびを治すのに横着にも私はこっそりと煙草をのんでひびが一日ずつ治ってゆくのを
新らしい陶器やきものを買っても、それをこわして継目つぎめを合せて、そこに金のとめかすがい百足むかでの足のように並んで光らねば
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
扉も雨戸もかすがいや太い釘で、厳しく隙なく止めに止めて、めったに開かないようにしてあるのだよ。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただ無計画に筆をつけはじめ、勢いに駆られてめくら滅法に書きおおせたというに過ぎない。終始漫然として断片的な資材を集めたに過ぎない。釘も打たずかすがいもかけていない。
雨戸に、その女を赤裸はだかかすがいで打ったとな。……これこれ、まあ、聞きな。……真白まっしろな腹をずぶずぶと刺いて開いた……待ちな、あの木戸に立掛けた戸は、その雨戸かも知れないよ。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かすがいの類が、頭にあたった——とでも申すのでございますれば、大道具の手落ち故、とも考えられるでございましょうが、何分にも、撥という事が、はっきりと分っている上からは
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
本来的な問題をとびこえて、子はかすがいという思想を支持していて。何か始めた、それも歴史的です。だが始めたことがどうなって行ったか、そして終りはどのような形に進展したか。
所が、お互に性格の底まで触れ合うくらいに馴れ親しみ、それから次には、夫婦のかすがいと世間に云われてる子供が出来、生活が複雑になってくるに従って、妙な工合になってきたのです。
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「おや!」と、思っているうちに、大工は道具箱から一尺に近いかすがいを取り出して、柱と板との継目に当てがうと、大きい金槌へ、いっぱいの力を籠めながら、カーンと鋭く打ち込んだ。
乱世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
舞台装置をする熟練した道具方どうぐかたは、組みたてたセットの急所を知っている。どこの釘、くさびかすがい、或いは、結び綱をとけば、道具がくずれるか、やろうと思えば、どんなことでも出来る。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
切り立った断崖の真中どころにかすがいの様にして架っている。高さ二十五間、欄干に倚って下を見ると胆の冷ゆる思いがした。しかもその両岸の崖にはとりどりの雑木が鮮かに紅葉しているのであった。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
これはそれまでにめいめいその準備したくをしていることではあるが、持合せのないもの、または当夜に限って必要なもの、たとえば槍、薙刀なぎなた、弓矢の類を始めとして、おのかすがい玄能げんのう懸矢かけや竹梯子たけばしご細引ほそびき
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
梯子はしごもなく、かすがいもなく、ただ筋力だけで、首と肩と腰とひざとで身をささえて、石のわずかな突起につかまって、壁のまっすぐなかどを、場合によっては七階くらいの高さまでもよじのぼることができた。
決して忘れ果てていたわけではないが、断ちきれないそのかすがいを、藤夜叉の口から今つきつけられて、初めて自己の“父”も実感されていたのだった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
片眼を錠前に押しつけ、できればこのあなをもっと拡げて、見たいものをかすがいかなんかで手近へ引き寄せられたらと思う、あの努力感がこれに似たものだったことを覚えている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
南京出刃打なんきんでばうち見世物みせものが、奇術にまじって、劇場にかかったんだよ。まともには見られないような、白い、西洋の婦人おんなの裸身が、戸板へ両腕を長く張って、脚を揃えて、これもかすがいで留めてある。
納屋の二階はガラクタの入れ場で、手摺と言ったところで巌丈がんじょう一方の丸木をかすがいで締めた、形ばかりの物、その角になったところへ屑金物の箱を載せれば、いかにも紐一本で落せないこともありません。
夜明けと共に、近所で騒ぎ立ち、直ぐ訴え出ましたので、取調べたところ、あのかすがい横丁の一と長屋と職人が皆、稲葉山から廻された美濃みのの間者だと知れました。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四、五本のかすがいが、ぱらぱらと落ちると、牢の柱が前にたおれた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かすがい六十本
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)