鋭鋒えいほう)” の例文
つつんでいた才気は徐々じょじょ鋭鋒えいほうをあらわし、その多芸な技能は、やがて王大将のおそばには、なくてならない寵臣ちょうしんの一名となっていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大蓮華山の方面では頻りに雲が湧き上っている。其先端は黒部の谷を横切って、時々劒岳の鋭鋒えいほうに砥の粉を打ったような霧を浴びせる。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
相手を下にも置かずもてなしながら、卑屈なところは微塵みじんもないし、巧みに鋭鋒えいほうをいなす態度は、見ていても頬笑ましいくらいであった。
古今集巻之五 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
客観写生に熟練して来ると、知らずらず作者の個性が隠そうとしても隠すことが出来なくなり、その鋭鋒えいほうが客観描写という袋を突いて出て来る。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
お徳の鋭鋒えいほうを避け、実はお秋を誘い出しにかかったことも白状しましたが、お徳を殺したことはどうしても言わず、それに証拠は一つもありません。
今まさに秋とて匈奴きょうどの馬は肥え、寡兵かへいをもってしては、騎馬戦を得意とする彼らの鋭鋒えいほうにはいささか当たりがたい。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
管鮑の交りは少時問わず、我我は皆多少にもせよ、我我の親密なる友人知己を憎悪し或は軽蔑けいべつしている。が、憎悪も利害の前には鋭鋒えいほうを収めるのに相違ない。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
道場も横領したいし、源三郎も手に入れたいし……これでは、お蓮様の鋭鋒えいほうもすっかりにぶってしまって、峰丹波の眼から見ると、はがゆいことばっかりなのはむりもない。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
君の崇拝する篠田先生も紡績女工の夜業などには、大分だいぶ間敷ましく鋭鋒えいほうを向けられるが、新聞配達の夜業はドウしたもんだイ、ひとの目にる塵をかぞへておのれの目に在る梁木うつばり御存ごぞんじないのか、矢ツ張り
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
お常は器械的に、いつものように働いているうちに、夫に打っ附かろうと思った鋭鋒えいほうは次第にくじけて来た。これまでもひどいいきおいで、石垣に頭を打ち附ける積りで、夫に衝突したことは、度々ある。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
田島は敵の意外の鋭鋒えいほうにたじろぎながらも
グッド・バイ (新字新仮名) / 太宰治(著)
巧みにその鋭鋒えいほうをさけようと試みた。
途上の犯人 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
しかし多くのばあい戦の成敗は微妙なある瞬間に懸っている、全滅を期した源七郎の戦気が、ついに敵の鋭鋒えいほうくじくときがきた。
青竹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
でなくてさえ、山門勢の鋭鋒えいほうに押しまくられていた六波羅方は、唐崎の陣をすてて、みぎたなく潰乱かいらんしだした。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
沁々しみじみとした調子に引入れられるともなく、平次も思わず固唾かたずを呑んで鋭鋒えいほうをゆるめます。
その科人とがにんと知りながら、こうまでつくしてくれるであろう? いまの言葉によれば、自分を思っていてくれる——とのことだが、もしそれが父の十手の鋭鋒えいほうにぶらすための、単なる一時の方便ほうべんでなく
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すさまじい気を吹いて、はや一太刀先へりこんだので、善鬼は、ばッと、かかと退き、さらにまた、相手の鋭鋒えいほうを避けて、二度まであとへ飛び退がってから、初めて、ぎらっと
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泌々しみ/″\とした調子に引入れられるともなく、平次も思はず固唾かたづを呑んで鋭鋒えいほうをゆるめます。
彼等は二人きりでこの曲輪の草地へ出て来て、袋竹刀で烈しく打合った。体力に勝れていた宗利は、そのとき小次郎を思うさま叩き伏せてやる積だったが、相手は巧に鋭鋒えいほうを避けて逃げ廻った。
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、当り難い敵の士気をさとったので、にわかに、彼の鋭鋒えいほうを避けて
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
市五郎は少しばかり鋭鋒えいほうを納めて、茶碗酒の手を休めました。
その斎藤隊の鋭鋒えいほうを、防ぎかねて見えた高山右近の部下も
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)