にび)” の例文
大臣は空間に向いて歎息たんそくをした。夕方の雲がにび色にかすんで、桜の散ったあとのこずえにもこの時はじめて大臣は気づいたくらいである。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と、小さなにびいろのランチが高く低く、のめりそうに高く低く、その荒浪を乗りあげ乗り下ろして来る。ぼうぼうぼうぼう。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
にび色にどつしりと或る落着きをもつて光つて居るささやかな萱葺かやぶきの屋根があつた。
菊燈台に南蛮蝋燭を立てならべ、灯の下で本を読んでいると、邸裏の木の間から、にび色の小狩衣に、悪魔でもんの面を出した南蛮頬をつけた男が忍びだしてきて、夜霧のようにぼーっと池の汀に立つ。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
濁れるにび水脈みを
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
次々に濃くしたにびの幾枚かをお重ねになった下には黄味を含んだうす色の単衣ひとえをお着になって、まだ尼姿になりきってはお見えにならず
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
喪の家として御簾みすに代えて伊予簾いよすが掛け渡され夏のに代えられたのもにび色の几帳きちょうがそれに透いて見えるのが目には涼しかった。
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
はなやかに春の夕日がさして、はるかな山のいただきの立ち木の姿もあざやかに見える下を、薄く流れて行く雲がにび色であった。
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
濃いにび色の紙に書かれて、しきみの枝につけてあるのは、そうした人のだれもすることであっても、達筆で書かれた字に今も十分のおもしろみがあった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
紅の黄がちな色のはかまをはき、単衣ひとえ萱草かんぞう色を着て、濃いにび色に黒を重ねた喪服に、唐衣からぎぬも脱いでいたのを、中将はにわかに上へ引き掛けたりしていた。
源氏物語:42 まぼろし (新字新仮名) / 紫式部(著)
これもにび色の今少し濃い目な直衣のうしを着て、冠を巻纓まきえいにしているのが平生よりもえんに思われる姿でたずねて来た。
源氏物語:30 藤袴 (新字新仮名) / 紫式部(著)
濃いにび色の単衣ひとえに、萱草かんぞう色の喪のはかまの鮮明な色をしたのを着けているのが、派手はでな趣のあるものであると感じられたのも着ている人によってのことに違いない。
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
明石の尼君の分も浅香の折敷おしきにび色の紙を敷いて精進物で、院の御家族並みに運ばれるのを見ては
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
さっと通り雨がした後の物の身にしむ夕方に中将はにび色の喪服の直衣のうし指貫さしぬきを今までのよりはうすい色のに着かえて、力強い若さにあふれた、公子らしい風采ふうさいで出て来た。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
源氏もなんとなく身にしむふうにあたりをながめていて、しばらくの間はものが言えなかった。純然たる尼君のお住居すまいになって、御簾みすふちの色も几帳きちょうにび色であった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
もう暗くなったころであったが、にび色の縁の御簾みすに黒い几帳きちょうの添えて立てられてある透影すきかげは身にしむものに思われた。薫物たきものの香が風について吹き通うえんなお住居すまいである。
源氏物語:20 朝顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
喪服のにび色ではあるが濃淡の重なりのえんな源氏の姿が雪のあかりでよく見えるのを、寝ながらのぞいていた夫人はこの姿を見ることもまれな日になったらと思うと悲しかった。
源氏物語:20 朝顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
尼さんはこうした簡単な暮らしをしていらっしゃってもよいものを着ていらっしゃいますわね、にび色だって青色だって特別によく染まった物を使っていらっしゃるではありませんか
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
濃いにび色の直衣のうしを着て、病死者などの多いために政治の局にあたる者は謹慎をしなければならないというのに託して、実は女院のために源氏は続いて精進をしているのであったから
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
にび色の物の用意に不足もなかったから、小袿こうちぎ袈裟けさなどがまもなくでき上がった。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と言って、ちょっと山のほうをながめてから大将がぜひもっと近くへ来てくれと言うので、余儀なくにび色の几帳きちょうすだれから少し押し出すほどにして、すそを細く巻くようにした少将は近くへ身を置いた。
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)