野分のわけ)” の例文
ある日曜の午後と覚えています、時は秋の末で、大空は水のごとく澄んでいながら野分のわけ吹きすさんで城山の林は激しく鳴っていました。
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
すでにその頃、尊氏は瀬田大橋もこえ、彼の東下の軍勢は、野分のわけつめあとのひどい稲田を途中に見つつ近江路を急いでいた。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
造酒は、かたわらの愛刀、阪東ばんどうろう幸村ゆきむらって野分のわけの称ある逸剣を取って、ニヤニヤ笑いながら、「金打きんちょうしよう」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
野分のわけ」位ナ所ガヨカロウト思イマス。ドウデショウ。中々人ガキタリ、何カシテ一気ニ書ケナイ。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その度毎に野分のわけの大風が吹き出されるような響を聞くと、お雪ちゃんは、どうしても、さきのあの大鷲がこの山へ舞い戻って、その羽風はかぜがこうしてあおるのだと思われてなりません。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あわれ室香むろかはむら雲迷い野分のわけ吹くころ、少しの風邪に冒されてよりまくらあがらず、秋の夜ひややかに虫の音遠ざかり行くも観念の友となって独り寝覚ねざめの床淋しく、自ら露霜のやがてきえぬべきを悟り
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
野分のわけとか、さてはまたヒビあかぎれとかそれらの俳諧の季題なるものはすべて、この人の世の辛い苦しい切ない悲しいことどもを、辛いなりに苦しいなりに、ジーッと見つめ、見守り、味わい
寄席行灯 (新字新仮名) / 正岡容(著)
あき野分のわけしば/\して、ねむられぬながの、あささむく——インキのかほりの、じつと新聞しんぶんに——名門めいもんのおぢやうさん、洋画家やうぐわか夫人ふじんなれば——衣絵きぬゑさんの(もうとき帰京ききやうしてた)重態ぢうたい
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
箭作彦十郎やづくりひこじゅうろう松原源兵衛まつばらげんべえ——居ならぶ御書院番衆ごしょいんばんしゅうの頭が、野分のわけのすすきのように首頷うなずき合い、ささやきかわして、眼まぜとともに裃の肩がざわざわと揺れ動く。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あたいほどな金子きんすを持ち合わぬ身、よんどころなく、父より貰いおきました『野分のわけ』と銘のある家宝の茶盌ちゃわんを売り払い、それにて求めましたので、鹿毛の名もそのまま
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腕をやくして、野分のわけは無事に吹去りぬ。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「五郎左、わしがそちへ譲った家宝の野分のわけの茶盌を、そちは人へ手放したときいたが、左様か」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腕をやくして、野分のわけは無事に吹去りぬ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一本には、「野分のわけ」と切銘きりめいがあって、下に小さく佐渡平と誌してある。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呼び交わし、さけび交わし、五十余名の女子たちは、撩乱りょうらん野分のわけに吹き荒らさるるお花畑の花のように、或いは横ざまに、或いは俯向うつむけに、或いは、相抱いて刺しちがえに、ことごとく自刃してしまった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
野分のわけのあと
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)