醍醐味だいごみ)” の例文
わずかににじみ出る血液くらいでは致死量に至らないようだ。むしろ醍醐味だいごみとなって、美味の働きをしているのかも知れない。
河豚は毒魚か (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「そうだ。相手は抱琴だ。ハガキ代は馬鹿にならないが、これは本当の碁の醍醐味だいごみだ。今に、猛烈に、はやりはじめるぞ」
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
とこの豁達かったつな笑いに忠相もくわわって、ともに語るにたる親交の醍醐味だいごみが、一つにもつれてけむりのように立ちこめる。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
寒さもまさり来るに急ぎ家に帰ればくずれかかりたる火桶もなつかしく、風呂吹ふろふき納豆汁なっとうじる御馳走ごちそうは時に取りての醍醐味だいごみ、風流はいづくにもあるべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
道命は無戒の比丘びくじゃが、既に三観三諦即一心さんかんさんたいそくいつしん醍醐味だいごみ味得みとくした。よって、和泉式部いずみしきぶも、道命がまなこには麻耶夫人まやふじんじゃ。男女なんにょの交会も万善ばんぜん功徳くどくじゃ。
道祖問答 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私はその境界きょうがいがいかに尊く難有ありがたきものであるかをかすかながらもうかがうことが出来た。そしてその醍醐味だいごみの前後にはその境に到り得ない生活の連続がある。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その地獄とも醍醐味だいごみともいえるところに静かにあぐらをかき、守り本尊を念じつつ微笑をって仕事する、そういう職人気質こそ私の理想とする人格なのだ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
まさに醍醐味だいごみである。先日の米の味といい、きょうのこれといい、我々が日頃自分の舌を甘やかしすぎて勿体もったいないくらいの天恵を忘れさせてることを思わせる。
胆石 (新字新仮名) / 中勘助(著)
何のさかながなくッたって、甘露かんろ醍醐味だいごみ、まるッきりうまさが、違わあな——そりゃあ、俺だって、何も、あいつをどうこうしようッていうんじゃあねえ、酌をさせるだけなら
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
自分のきわめているのは、今の哲学者の見るところによると、欧羅巴文明の糟粕そうはくかも知れない。かの糟粕を究めつつ、自家の醍醐味だいごみも知らないということになると、いい笑い物だ。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この洋行帰りの青年紳士は、室子の家の遠縁に当り、かつて彼女をスカールへ導き、彼女に水上選手権を得させ、スポーツの醍醐味だいごみも水の上の法悦も、共に味わせて呉れた男だった。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
有能な読者は、他人の書いたものの中に、作者がこれに記し止め、かつこれにそなわっていると思ったものとは別個の醍醐味だいごみをしばしば見い出して、それに遙かに豊かな意義と、相貌そうぼうとを
この清潔の醍醐味だいごみが欲しかったら、若き詩人よ、すべからく当道場を御訪問あれ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
赤松の樹蔭こかげに茶店がある。中根さんはそこへ這入る。水潰けになっているラムネを二本註文する。みぞれをかいてもらって、それへラムネをかけて飲む。舌の上がぴりぴりとしてその醍醐味だいごみ蒼涼そうりょう
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
而も俳句がさびを芸の醍醐味だいごみとし、人生に「ほっとした」味を寂しく哄笑こうしょうして居る外なかった間に、短歌は自覚して来て、値うちの多い作物を多く出した。が、批評家は思うたようには現れなかった。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
翁は外国にあって——わけても英・独・米等の地に永く留まって、フランス料理の醍醐味だいごみあまねからしめたので、『美食の大使』とも呼ばれていた。
が、兎に角海彼岸の文学にうとかつた事だけは確である。のみならず芭蕉は言詮げんせんを絶した芸術上の醍醐味だいごみをも嘗めずに、いたづらに万巻の書を読んでゐる文人墨客ぼくかくの徒を嫌つてゐたらしい。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし彼の漢詩の英訳は少くとも僕等日本人には原作の醍醐味だいごみを伝へてゐない。