贖罪しょくざい)” の例文
長い間の悔悛かいしゅんと克己との後、みごとにはじめられた贖罪しょくざいの生活の最中に、かくも恐ろしき事情に直面しても少しも躊躇ちゅうちょすることなく
富者はその美徳をあまり多く享有する事の罪を自覚するがゆえに、その贖罪しょくざいのために種々の痴呆ちほうを敢行して安心を求めんとする。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
爾後じごうるときは鉄丸をくらい、かっするときは銅汁を飲んで、岩窟がんくつの中に封じられたまま、贖罪しょくざいの期のちるのを待たねばならなかった。
交響詩は「贖罪しょくざい」と「プシシェ」、それぞれヴォルフの指揮でポリドールに入っているが吹込みが少し古いのと、全曲でないのが惜しい。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
贖罪しょくざいの日』において守るべきことが規定せられているだけであったが(レビ記一六の三一)、バビロン捕囚後しだいに断食の日が多くなり
五十日の懲役には行かずに済んだものの、贖罪しょくざいの金は科せられた。どうして、半蔵としては笑い事どころではない。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして彼らの言葉はすべての悪を弁護し承認する贖罪しょくざい的な言葉としての貴さをさえ持っておるように見える。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
それはちょうど盜んだ袋を背おわせられて贖罪しょくざいの苦役に服している業火につつまれた男のような恰好であった。フリードリヒは叔父のうしろからついて行った。
積むべき贖罪しょくざいのあまりに小さかった彼は、自分が精進勇猛の気を試すべき難業にあうことを祈っていた。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
信心は母に植えつけられた過去への贖罪しょくざいでもあったが、その日その日の彼女の自制と希望でもあった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それが唯一の贖罪しょくざいという意であろうか。それとも愛のあかしといいたかったのだろうか、——言葉はそこで切れたまま、おなつは崩れるようにそこへ泣き伏してしまった。
契りきぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
たぶん贖罪しょくざいの方法が指示されるだろうとは予想していたものの、先祖伝来の家屋田畑を召しあげることになろうとは、それは、かりそめにも考えに浮んだことはない。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
理由いわれのない、良心の呵責かしゃくに悩み疲れている。理由はない、まさに確然と理由はない、それであるのに……。どうして、懲罰とか贖罪しょくざいとかいう意識がさき走ってくるのだろう。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
私はキリスト教の宿罪の思想に非常に興味を感じます。私らの生まれながらの罪を救済するための罪なきものの贖罪しょくざいとしての十字架が、真に愛のシンボルであるとも思います。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ローマ人は贖罪しょくざいのささげ物をし、「この森にこもります男神または女神は、どなた様かは存じませんが、わたくしとわたくしの家族、子供たちをおめぐみくださいませ、云々」
むしろ必要とするところでもあったので、むちを嬉ぶ贖罪しょくざい者の気でじっと辛抱して勉強した。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼は勇ましくも贖罪しょくざいの生活にはいり、マドレーヌなる名のもとに姿を隠して、モントルイュ・スュール・メールの小都市において事業と徳行とに成功し、ついに市長の地位を得た。
レ・ミゼラブル:01 序 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
内からの反省と外からの刺戟しげきと、ここに二重の贖罪しょくざいが行われて来ねばならぬ訣である。
反省の文学源氏物語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
自分はどんな苦行をしても寂しい世界に贖罪しょくざいの苦しみをしておいでになる中宮の所へ行って、罪に代わっておあげすることがしたいと、こんなことをつくづくと思い暮らしていた。
源氏物語:20 朝顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
イヴォンヌさんにしろ、従姉妹いとこ槇子まきこ麻耶子まやこにしろ、日本女学園のやんちゃな五人組。……また、叔父の秋作や立上たてがみ氏。いま、ちょっとした過失の贖罪しょくざいをしているあの気の弱い佐伯氏。
※悔ざんげの道、贖罪しょくざいきよめ、他にあろう、他日ほかに……」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
贖罪しょくざいをなしてるあの修道女が平伏し祈祷きとうしていた覚えの場所の方へ向いて、じっとひざまずいている彼の姿が見られた。
キリストの救いには、贖罪しょくざいということと、復活ということと、再臨ということと、三つの事柄がある。第一は贖罪。これは罪をあがなうということです。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
そのたびに徴せらるる贖罪しょくざいの金だけでも谷中ではすくなからぬ高に上ろうとのうわささえある。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あの有名夫人団は施与をすることによって、自分の贖罪しょくざい意識と優越感を満足させようとした。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私の決心はぐらつきません。贖罪しょくざいをして新しく生まれ変わったら、その身装みなりをお目にかけに行きます。……キャラコさん、私はあなたにひどい嘘をつきましたが、どうぞ、ゆるしてください。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
娘お染を捜しながら、贖罪しょくざいの旅は、それから七年の間続きました。
「仕方がない、贖罪しょくざいだ!」もう一人の声がこう云った。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかも、かくも似寄りまたかくも異なれるそれら二つの場所において、かくも相違せる二種の人々は、同じ一事をなしているのである、すなわち贖罪しょくざいを。
事実ほど強い論理はないのでありまして、その意味では十字架の贖罪しょくざいはだれにでもわかる福音なんです。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
自分の犯した行為のために贖罪しょくざいをしている、というふうにさえ感じられるのであった。
むしろややさかのぼってフランクの『交響曲=ニ短調』(ポリドール八〇〇九五—九八)と『贖罪しょくざい』、(四〇四七八)、シャブリエの諸作品を吹込んでいるが、そういうものの方が良いのではないかと思う。
けれどもその贖罪しょくざいの祭式をも、二人のりっぱな婦人、ブーク侯爵夫人であるクールタン夫人とシャトーヴィユー伯爵夫人とは、なお足りないように思った。
しかしイエスの死を仰ぐ私どもは、十字架による贖罪しょくざいの象徴をこの事件の中に見るのです。
犯人の方にあやまちの弊があったとするも、法律の方に刑罰の一層の弊がありはしなかったであろうか。はかりの一方に、贖罪しょくざいの盛らるる一方の皿に、過度の重さがなかったであろうか。
彼の血を献ぐる者は永遠の贖罪しょくざいを恵まれる。彼は
彼の最初のあやまち、彼の長い贖罪しょくざい、彼の外部の愚鈍、彼の内部の冷酷、あれほど多くの復讐ふくしゅうの計画をもって楽しんだ彼の釈放、司教の家で彼に起こったこと、彼がなした最後の一事
「君は贖罪しょくざいという語をもって、罪悪を意味させるんだろう。」
これは極めて些細ささいなことだ。この些細なことも一つの贖罪しょくざいだ。