襖際ふすまぎわ)” の例文
退さがってゆく二十歳はたち足らずの小姓らしき者へ、使者の二人はしずかな眼をそそいでいる。襖際ふすまぎわ作法行態さほうぎょうたい、平常と変りはない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甲斐は中の間と境の襖際ふすまぎわに立停って、ちょっと不審そうに宇乃を見た。宇乃は眼をあげて微笑し、それから挨拶を述べた。
窓下の襖際ふすまぎわぜんの上の銚子ちょうしもなしに——もう時節で、塩のふいたさけの切身を、はもの肌の白さにはかなみつつ、辻三が……
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
慎太郎がこう云いかけると、いつか襖際ふすまぎわへ来た看護婦と、小声に話していた叔母が
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と紺の鯉口こいぐちに、おなじ幅広の前掛けした、せた、色のやや青黒い、陰気だが律儀りちぎらしい、まだ三十六七ぐらいな、五分刈りの男が丁寧に襖際ふすまぎわかしこまった。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
襖際ふすまぎわには、平伏している金森五郎八と不破彦三と、それに利家がいる。それだけしかここには見えぬ。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
登はぼんやりそう思っただけであるが、まさをとの盃が作法どおりに終ると、盃台や銚子をはこんで来た婦人が、ずっと向うの襖際ふすまぎわに両手を突いて、「おめでとうございます」と祝いの言葉を述べた。
次の間と隔ての襖際ふすまぎわ……また柱の根かとも思われて、カタカタ、カタカタと響く——あの茶立虫ちゃたてむしとも聞えれば、壁の中で蝙蝠こうもりが鳴くようでもあるし、縁の下で、ひきがえる
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
襖際ふすまぎわに居並んでいる奥仕おくづかえの女たち、ホホとんで珍しい殿の舞振りに眼をあつめた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と優しいのがツンと立って、襖際ふすまぎわに横にした三味線を邪険に取って、縦様たてざまに引立てる。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小侍が息をって、次の襖際ふすまぎわでその時云った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中庭越に下座敷をきょろきょろとみまわしたが、どこへ何んと見当附けたか、案内も待たず、元の二階へも戻らないで、とある一室ひとまへのっそりと入って、襖際ふすまぎわへ、どさりとまた胡坐あぐらになる。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かたわらとも云ふまい。片あかりして、つめたく薄暗い、其の襖際ふすまぎわから、氷のやうな抜刀ぬきみを提げて、ぬつと出た、身のたけ抜群な男がある。なか二三じゃく隔てたばかりで、ハタと藤の局とおもてを合せた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
入交いれかわって、歯を染めた、陰気な大年増が襖際ふすまぎわへ来て、瓶掛びんかけに炭を継いで、茶道具を揃えて銀瓶を掛けた。そこが水屋のように出来ていて、それから大廊下へ出入口に立てたのがくだんの金屏風。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、婀娜な目で、襖際ふすまぎわからのぞくように、友染のすそいた櫛巻の立姿。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)