かち)” の例文
黒點は次第にあざやかになりぬ。時に一人の老漁ありて、かちいろなる無庇帽つばなしばうしを戴き指を組み合せて立ちたりしに、不意にあなやと叫べり。
そのかたわらに馬立てたる白髪のおきな角扣紐つのボタンどめにせし緑の猟人服かりゅうどふくに、うすきかちいろの帽をいただけるのみなれど、何となくよしありげに見ゆ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
など云うたぐいかえで銀杏いちょうは、深く浅く鮮やかにまたしぶく、紅、黄、かちあかね、紫さま/″\の色に出で、気の重い常緑木ときわぎや気軽な裸木はだかぎの間をいろどる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かちの直垂に頭巾姿の土佐房を大庭に引き据えると、義経は笑いながらいった。
さてその椅子は、彼等に甚だ親切で、かちいぶされ
柄鞘つかざやの黄金の桜あかり大将刀ぞかちの糸巻
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そのかたわらに馬立てたる白髪のおきなつのボタンどめにせし緑の猟人服かりうどふくに、うすきかちいろの帽をいただけるのみなれど、なにとなくよしありげに見ゆ。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かち色なる方巾はうきん偏肩へんけんより垂れたるが、きれまとはざるかたの胸とひぢとは悉く現はれたり。雙脚には何物をも着けざりき。
田は黄色から白茶しらちゃになって行く。此処其処の雑木林や村々の落葉木が、最後のさかえを示して黄にかちに紅に照り渡る。緑の葉の中に、柚子ゆずが金の珠を掛ける。光明はそらからり、地からもいて来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ブロンドとまたかちの夜々
大隊長は四十の上を三つ四つもえたらむとおもはるる人にて、髪はまだふかきかちいろを失はねど、その赤きおもてを見れば、はやぬかの波いちじるし。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その常に戴けるかち色の帽は耳を隱すまで深く引き下げられたり。寺院の鐘は鳴り渡れり。紫衣の若僧の一行あり。じゆを唱へて過ぐ。捧ぐる所の磔像たくざうには、新に摘みたる花の環を懸けたり。
妃は髪黒くたけ低く、かちいろの御衣おんぞあまり見映せぬかはりには、声音こわねいとやさしく、「おん身は仏蘭西フランスえきに功ありしそれがしがうからなりや、」などねもごろにものし玉へば、いづれも嬉しとおもふなるべし。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)